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社説・コラム

社説 辺野古 土砂投入へ 民意との乖離 極まった

 防衛省は沖縄県名護市辺野古への米軍基地移設に伴い、沿岸部を埋め立てる土砂の投入を14日に始めることを明らかにした。この1カ月間、政府と県は集中協議を行った。安倍晋三首相と玉城デニー知事のトップ会談も開かれたが、その5日後の決定である。政府の対話姿勢とは、ポーズだったのか。

 玉城知事と県幹部は極めて重要な指摘をしたにもかかわらず、政府は聞く耳を持たなかったようだ。埋め立ての賛否を問う来年2月の県民投票を控え、既成事実化へ突き進むのならば容認できるものではない。

 辺野古に移設するという米軍普天間飛行場は宜野湾市の市街地のど真ん中にある。その返還時期について、1996年に当時の橋本龍太郎首相とモンデール駐日米大使が「5~7年以内」で合意していたが、今もって履行されていない。

 あろうことか、2004年には隣接する沖縄国際大構内に米軍ヘリが墜落して市民を恐怖に陥れた。世界にも例を見ない危険な基地であり、無条件の閉鎖・返還しかあるまい。ところが、いつの間にか、普天間返還が辺野古への移設とセットで検討されるようになったこと自体まずもって理不尽だろう。

 玉城知事は集中協議の席上、辺野古の基地が運用できるまでに最低でも13年を要することや、県の試算によって埋め立てに関わる工費が当初計画の10倍の2兆5500億円に膨らむことなどを指摘した。沖縄防衛局の調査で工事区域の海底に軟弱な地盤が存在することが判明したためであり、ずさんな計画だと言われても仕方がない。

 13年も要していては、普天間閉鎖による危険性除去という目的は果たせまい。予算の膨張についても、納税者たる全国民が憤るべき現実ではないか。

 玉城知事にはあらゆる機会を捉えて、辺野古の計画の見直しに理があることを訴えてもらいたい。私たちも、わがこととして受け止めなければ、沖縄の米軍基地の問題は解決しない。

 民意との乖離(かいり)は一連の手続きにもある。県による埋め立て承認の撤回に対して、沖縄防衛局は行政不服審査法に基づいて国土交通相に審査を請求し、国交相が撤回の効力停止を決定したのだ。しかし政府機関の申し立てを同じ政府機関が審査したことを巡っては、中立性や公平性の観点から問題があろう。

 県は国交相の決定を不服として総務省の第三者機関・国地方係争処理委員会に審査を求めており、委員会は来年2月末までに判断を示す見通しである。政府はなぜ2月の県民投票や委員会の判断を待てないのか。

 さらに防衛省は一部の岸壁が壊れた本部港(本部町)から土砂の搬出ができないことになると、「だまし討ち」との反発をよそに名護市の民間企業の桟橋で作業を始めた。しかし県が手続きの上で違法だと指摘したため、きのうは一時中断を余儀なくされた。ごり押しの上に失態をさらしたことになろう。

 玉城知事は安倍首相に対し「いつまで、どれだけ沖縄なんですか」と基地負担の現実を端的に訴えた。首相と知事との対話の継続については、沖縄では与野党の別なく求めている。民意を背負った知事との対話の席に、まずは戻ってもらうしかあるまい。

(2018年12月5日朝刊掲載)

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