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社説・コラム

天風録 『辺野古の海』

 歌は世につれ、世は歌につれと言う。世情を映す鏡だ。軍事拠点である沖縄の民意を探ろうと、米中央情報局(CIA)が6年前、ポップス音楽などを分析していた。沖縄の地元紙の取材で明らかになった▲公開されたCIAの文書には若者らに人気の曲が並ぶ。普天間飛行場の移設先に反対する人々が口ずさむ、女性シンガー・ソングライターCoccoの「ジュゴンの見える丘」も。<沖縄のもろくも美しい環境に光を当てた>曲とCIAは読み解く▲方言で「ザン」と呼ばれ、人魚のモデルとされるジュゴンが泳ぐ辺野古の海が汚された。県側の反対を押し切り、きのう国が埋め立てを始める▲汚れていくサンゴ、減る魚。石垣島出身のBEGINが歌う「島人(しまんちゅ)ぬ宝」は大切な物を深く知ろうと呼び掛ける。<島独特の自然や歴史が持つ物質的ではない豊かさ>へのメッセージだとCIAは解説する。その宝に手を付けたらどれほど反発を浴びるか、探ろうとしたのだろう▲先の知事選の結果などからも明らかなように、地元は「辺野古に基地は要らない」との大合唱だ。移設こそ唯一の解決策―と首相が声を張ろうとも、強権を振りかざす独唱では人々に響くまい。

(2018年12月15日朝刊掲載)

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