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社説・コラム

天風録 『ローマ法王、被爆地へ』

 母は長崎の軍需工場で被爆した。信仰のあつい五島列島に被爆2世として生まれ育つ。カトリックの前田万葉(まんよう)枢機卿である。広島・長崎を来年末に訪れたいというローマ法王フランシスコに、込み上げるものがあるだろう▲ことし枢機卿になる際に早速、法王に被爆地訪問を働き掛けた。広島教区司教を4年前まで務めた前田さん。法王の平和アピールが今も息づく広島で、「訪問は平和実現の確かな歩みになる」という確信を深めていた▲37年前に初めて被爆地を訪れたヨハネ・パウロ2世が発したアピール。「戦争は死です」という言葉は信徒に受け継がれている。その際は、やはり長崎の平戸生まれで、広島教区司教を務めた三末篤実(みすえ・あつみ)さんが奔走した。来日には、いつも被爆地ゆかりの人の尽力がある▲今回「焼き場に立つ少年」も法王フランシスコの心を揺さぶった。被爆後の長崎で死んだ幼いきょうだいを背に順番を待つ少年。その写真を、法王はカードにして配っている。「戦争がもたらすもの」と言葉を添えて▲被爆者をはじめ広島、長崎の市長らも求めていた訪問が実現する。どんなアピールを発するのだろう。ぜひ国や宗教そして時を超えて、響く言葉を。

(2018年12月19日朝刊掲載)

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