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社説・コラム

社説 防衛大綱・中期防 「専守」の縛り ほどくな

 10年先を見通していたはずの防衛大綱が、5年前倒しで再び改定された。宇宙やサイバー空間といった「新たな領域」の脅威に対処する能力向上が死活問題だと、政府は説明している。中国の急速な軍事的台頭も念頭にあるのだろう。

 とはいえ次期中期防衛力整備計画(中期防)には、国是ともいえる「専守防衛」が有名無実となりかねない装備が並ぶ。いずれも護衛艦の「いずも」と呉市が母港の「かが」を改修し、戦闘機を載せて遠洋でも運用できるようにする。短距離で離陸し、垂直着陸する最新鋭ステルス戦闘機F35Bを18機新規導入する。事実上の空母となる2隻で離着陸が可能という。

 歴代の内閣は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や長距離戦略爆撃機と並び、攻撃型空母の保有を憲法違反と判断してきた。「自衛のための必要最小限度」の範囲を超えるからだ。今回の空母化が、その原則を踏み外す恐れはないのだろうか。

 「いずも」や「かが」が、現在搭載しているヘリコプターを戦闘機に積み替えれば、攻撃型空母とも変わらなくなる。

 改修後は、共同訓練などの際に米軍機が発着する想定もあるという。専守防衛に変わりはないと言いつつ、なし崩しに骨抜きにしてはならない。

 岩屋毅防衛相は「戦闘機を常時搭載するのではないから、攻撃型空母でない」とする。改修後も、中期防では「多機能の護衛艦」と位置付けている。

 与党間ではいったん、「多用途運用護衛艦」として合意したはずである。呼び名のずれは、議論の積み上げ不足をさらけ出していよう。先制攻撃向きのステルス機の選定も含め、防衛省内でさえ異論がくすぶっていると聞く。

 むしろ、政治主導のつじつま合わせといった感が強い。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」をはじめ、武器を売り込むトランプ米大統領の歓心を買うように、安倍晋三首相が次々と買い入れる姿勢を続けるからである。

 11月末の首脳会談でもトランプ氏は、F35を日本が大量購入するとして「感謝する」と先手を打った。予算化すらまだなのに首相は否定もしなかった。実際、F35を105機買い入れる計画をおとといになって閣議了解している。費用は、それだけで計1兆円を超すという。

 今後5年間の防衛予算額は、過去最大の27兆4700億円に膨らむ。国の借金が1千兆円を超す中、とどまるところを知らない防衛費の膨張に、国民の理解が得られるだろうか。

 その点、民意に耳を貸さぬ政権の姿勢は思いやられる。先日も、米軍普天間飛行場の辺野古移設を「日米同盟のためではない。日本国民のためだ」とした岩屋防衛相が、地元沖縄から「日本国民に沖縄は入っていないのか」と反感を買った。

 「かが」の空母化で母港の呉市は軍事拠点として重みが増す。攻撃されるリスクを一層危ぶむ声も聞こえてくる。

 軍部が暴走した戦前昭和の反省から日本は平和国家の道を歩み、平成の世も戦火を交えずにきた。新たな防衛大綱と中期防は「専守防衛」の縛りをほどきかねない。国会審議を通じ、費用対効果も含め、なお慎重に見極めるべきである。

(2018年12月20日朝刊掲載)

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