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社説・コラム

社説 悪化する日韓関係 冷静な対話で修復図れ

 日韓関係が悪化の一途をたどっている。戦時中の元徴用工らへの賠償を命じた韓国最高裁の判決を巡る確執が先鋭化し、海上自衛隊の哨戒機が韓国艦から危険なレーダー照射を受けたとされる問題も解決への糸口さえ見えない。憂慮すべき事態だ。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はきのうの年頭会見で「日本の政治指導者が政治的な争点とし、問題を拡散させているのは賢明ではない」と述べた。日本側の対応を批判するだけでは対立が深まるばかりである。危機的ともいえる両国関係の現状に対する認識が甘いと言わざるを得ない。

 北朝鮮の核・ミサイル開発問題をはじめ、北東アジアの平和と安定に向け、両国は緊密に連携し合わなければならない関係にある。冷静な対話を基本に、粘り強く関係修復を図っていかなければならない。

 元徴用工判決を巡って、日本政府は、日韓請求権協定に基づく協議を初めて韓国側に要請した。原告側の申請が認められ、日本企業が韓国内で保有していた資産が差し押さえられたためである。企業活動への影響は看過できないが、対立が極まることになったことは残念だ。

 賠償問題は1965年の日韓請求権協定によって「完全かつ最終的に解決された」というのが日本政府の立場である。今回の判決に「日韓関係の法的基盤を根本から覆す」と反発し、適切な措置を講じるよう韓国政府に求めていたが、方向性すら示されなかった。

 日本政府は対抗措置として国際司法裁判所(ICJ)に提訴する構えだ。元徴用工側が差し押さえた資産を売却する手続きに入るようなことになれば、泥沼化は避けられないだろう。

 これ以上事態を深刻化させないためにも、韓国側は政府間協議に応じるべきではないか。協議をきっかけに、何とか関係修復に向けた流れをつくりたい。

 両国間には課題が山積している。昨年11月には慰安婦問題の日韓合意に基づいて設立された財団について韓国政府が解散する方針を表明した。元慰安婦への支援事業が実施できなくなった。さらに先月下旬に海上自衛隊機への火器管制レーダーの照射問題が表面化し、追い打ちとなった。

 火器管制レーダーは、ミサイルなどの発射直前に照準を目標に合わせるために行う。不測の事態を招きかねない危険な行為であり、見過ごすことはできない。日本側が抗議するのも当然である。

 その時点で韓国側が経緯や事実関係を丁寧に説明し、再発防止策を議論すれば、問題がここまで大きくなることはなかったはずだ。日本側が「証拠」とする動画を公表すれば、韓国側も反論の動画公開で応じ、対立はエスカレートしている。かたくなに反発する韓国側の姿勢は理解に苦しむ。

 軍事機密も絡み情報が限定的なためか、謝罪や処分を求める感情的な議論に終始しているようにさえ映る。引くに引けない状況を転換させるような取り組みが双方に求められる。

 安倍晋三首相も文氏もそれぞれ、「未来志向」の日韓関係の構築を強調している。不毛な対立を続けても、何らプラスにはならない。まず両首脳が意思疎通を図り、関係を修復する重要性を確認し合う必要がある。

(2019年1月11日朝刊掲載)

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