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社説・コラム

社説 原発事故と損害賠償 制度の見直し 急がれる

 東京電力福島第1原発事故の損害賠償を巡って、福島県の住民たちが集団で申し立てた裁判外紛争手続き(ADR)を、国の原子力損害賠償紛争解決センターが打ち切るケースが相次いでいる。

 センターが示した和解案を東電が再三にわたって拒否し、和解が見通せないためだという。

 住民たちは訴訟に踏み切らざるを得ないが、それには費用も時間もかかる。被災者の早期救済を目的としたADRだけに、和解案の受け入れに強制力を持たせるなど、改革を求める声が上がるのも当然だろう。

 ADRは、国が指針で示した損害賠償の対象や金額では不十分な場合に備えた制度である。賠償に不服がある人は、公的機関であるセンターに申し立てができる。

 センターは双方の意見を聞いて和解案をつくり、受け入れるよう促す。しかし受け入れに法的義務はない。センターにも強制力はないため、東電が拒否し続ければ解決は遠のく。

 センターは業務規定で「迅速かつ適正な解決」を目的に掲げている。それを実現しようと、何度も東電に和解を促すなど尽力していることは評価できる。

 しかし最終的に打ち切りにしてしまえば何の解決にもならないのではないか。訴訟になればさらに争いを長期化させることになる。早期救済という本来の目的を忘れてもらっては困る。

 そもそも事故を起こした側の判断で、和解が打ち切りになること自体、申し立てた住民にとっては理不尽に違いない。

 昨年以降、打ち切られたADRで、最も規模が大きかったのは同県浪江町のケースである。2017年3月末まで全域に避難指示が出されていた地域である。町が代理人となり、事故当時の住民のおよそ7割に当たる計約1万5千人が慰謝料の増額などを求めた。

 センターは賠償額を上乗せした和解案を示したが、東電はかたくなに拒み続けた。センターが、「理解しがたい」と異例の批判をしたのもうなずける。

 これ以外でも、東電の拒否で打ち切られたADRの多くは、センターから国の指針を上回る賠償を求められたケースのようだ。和解案を受け入れることで賠償の額や範囲が広がることを恐れているのかもしれない。

 しかし東電は、事業計画の中で「和解仲介案の尊重」を掲げている。ならば事の重大さを認識し、早期救済に誠意を見せるべきだろう。

 原発事故直後の11年8月に示された損害賠償についての国の指針も見直すべき時ではないか。福島の住民たちが申し立てたADRを担当する六つの弁護団はこのほど、東電が指針を都合良く解釈し、和解を妨げているとして、原子力損害賠償紛争審査会に見直しを求める申し入れ書を合同で送った。

 事故を巡り、全国で係争中の集団訴訟では指針を上回る賠償額が相次いで示されている。センターも事故による生活再建の難しさなどが国の指針には考慮されていないと指摘している。

 ことしは原発事故から8年を迎える。和解手続き中に亡くなった人も多い。

 国は早期救済に向け、制度の限界や問題点を整理すべきだろう。指針の見直しも含め、議論を急がなければならない。

(2019年1月20日朝刊掲載)

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