×

社説・コラム

社説 米朝首脳 来月再会談へ 非核化の目標 見失うな

 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による再会談が、来月下旬に開かれる見通しになった。

 昨年6月の史上初の首脳会談は歴史的な意義があったと言える。だが、その際合意した「朝鮮半島の非核化」のプロセスは一向に進んでいない。トップ同士の話し合いでしか開けぬ道もあろう。ただ今回は、トランプ氏が安易に妥協する懸念が強まっているのではないか。

 派手な言葉が躍り、具体的な成果が伴わない「政治ショー」を繰り返してはならない。

 1年前にあった高揚感は一体何だったのだろう。韓国・平昌冬季五輪への北朝鮮代表団の参加が決まり、南北の融和ムードは一気に高まった。それが世界の注目を集めた米朝首脳会談につながったのは間違いない。

 長年の懸案だった北朝鮮の核開発問題が解決に向かうのではないか。核兵器のない世界を願う広島・長崎の被爆地にも、そんな期待が確かにあった。

 ところが、米国が非核化の入り口として求めた核関連施設のリスト提出と国際機関の査察を北朝鮮は拒否。まず朝鮮戦争の終結を急ぐよう主張した。核の先行放棄は、カダフィ政権が崩壊した「リビア方式」に似ていて、受け入れられないのかもしれない。

 協議の陰で北朝鮮内のウラン精製施設が今なお稼働しているとの分析もあり、米朝の相互不信は再び高まりつつある。停滞する非核化協議を動かすため、セットされたのが今回の会談だろう。

 しかし内政に難題を抱えるトランプ氏が、外交舞台でアピールしようとする政治的な思惑の方が強いのではないか。

 任期4年を折り返したトランプ氏は苦境に立たされている。昨年11月の中間選挙で下院の過半数を握った民主党と激しく対立する。メキシコ国境への壁建設問題を巡って予算が失効し、一部の政府機関の閉鎖状態が続く。捜査が進むロシア疑惑もくすぶっている。

 会談で何らかの成果を出したいのだろうが、核物質を隠し持つなど非核化の抜け道を残したまま経済制裁を緩めてはいけない。あくまで「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」が目標のはずだ。

 金氏は、非核化への本気度が問われる。年頭の演説で「これ以上、核兵器はつくらない」と明言したが、行動でも示さねばなるまい。米国の提案が不満なら、協議の材料として自らロードマップを示すべきだろう。

 日本は、トランプ氏が成果を急ぐあまり軽率に妥協しないよう、くぎを刺さねばならない。

 日米両政府はきのう、来月中旬に外相会談を開く方向で調整を始めた。北朝鮮へのスタンスを改めて確認する必要がある。韓国も含めて結束が乱れれば、北朝鮮やその後ろ盾の中国に足元を見られ、非核化の流れがさらに停滞する恐れがある。

 この1年で米中の経済摩擦は激しさを増した。中国は北朝鮮との外交を対米貿易交渉のカードとして使い始めたとの専門家の見方もある。事態はより複雑化しているとも言えよう。

 朝鮮半島の非核化は一筋縄ではいかない。米朝だけではなく、関係国が協調し、知恵を出し合ってこそ初めて実現すると肝に銘じるべきである。

(2019年1月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ