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社説・コラム

社説 一般教書演説 いつまで「米国第一」か

 海の向こうにも自説を曲げないリーダーがいる。米国の上下両院合同会議で一般教書演説に臨んだトランプ大統領である。向こう1年の施政方針の説明に当たっても、内向きな「米国第一主義」を崩さなかった。

 2年前の就任時に比べ、取り巻く状況は変わった。昨年の中間選挙で野党の民主党に下院多数派を奪われる。メキシコ国境への壁建設の予算が改めて反発を買い、連邦政府機関が約1カ月閉鎖。演説も当初予定の先月末から延期を余儀なくされた。

 つなぎ予算でひと息ついたトランプ氏だが、反省の色は乏しい。むしろ人気取りのポピュリズム路線を強めた感もある。

 演説のテーマに「偉大さへの選択」を据えた。民主党に限らず与党の共和党もが放置してきた問題に自らは取り組んできたと主張。就任2年間で「米経済は羨望(せんぼう)の的となり、米軍は世界最強となった」と胸を張った。

 老朽化したインフラ再整備などに絡めて「米国再建」とのフレーズも織り込み、「U・S・A」とはやし立てる与党議員席に得意げに目をやった。2020年の大統領選をにらんだアピールだとの評価が専らである。

 国際社会に訴える「目玉」も抜かりなく用意していた。非核化に向けた北朝鮮との2回目の首脳会談についてだ。今月27、28日のベトナムでの開催を明らかにした。会談の見通しに踏み込まなかったのは、トランプ氏の言葉と現実の間に隔たりが生じているからだろう。

 昨年の初会談時とは異なり、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は中国にすり寄る。米中の貿易摩擦に乗じた動きだ。これまでの協議の停滞への焦りからか、米側から先日「核を手放せば経済大国になれる」と誘いを掛けた。次回会談の先行きは不透明で、単なる顔合わせで終わりかねない恐れもある。

 建前と本音が入り交じり、額面通りには受け取れない演説だった。「数十年の政治の行き詰まりは打破できる。連帯して新たな解決策をつくろう」などと珍しく融和的な表現を多用したのは、民主党への配慮に他ならない。一方で「(メキシコ国境に)私は壁をつくる」と改めて表明した。壁の建設費捻出のため「国家非常事態宣言」や政府機関の再閉鎖も辞さない構えで対立は当面続くだろう。

 こうしたトランプ流政治に痛烈なノーを突き付けた光景が印象的だった。民主党のペロシ下院議長ら女性議員が白のスーツに身を包む。米国では女性の政治参加を象徴する色だ。女性蔑視の言動を重ねてきた大統領の目にどう映ったか。

 底堅い4割の支持率を後ろ盾に独善を重ねるトランプ氏だが、その弊害は米国内にとどまらない。地球温暖化対策に背を向けるばかりか、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄通告にも及んだ。

 いつまで身勝手な米国第一主義を続ける気か。いさめる国際社会の先頭に被爆国の日本が立つべきで、6月に大阪で20カ国・地域(G20)首脳会合も開かれる。安倍晋三首相がかねて唱える「蜜月」が、なれ合いでないことを証明してもらいたい。

 在日米軍基地の問題に加え2国の新たな通商交渉も始まる。国益最優先を訴えたトランプ氏の演説は翻って、日本外交の正念場であることを意味しよう。

(2019年2月7日朝刊掲載)

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