×

ニュース

被服支廠 改修案先送り 広島県 3棟対応検討後に判断

 広島市内で最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(南区)の保存・活用を巡り、広島県は2018年12月に公表した改修案の実施を先送りすると決めた。1号棟を集中的に補修するほか、敷地内に新たな建物を建てて見学者が被爆証言などを聞く場所とする計画だったが、方針を転換。所有する1~3号棟のそれぞれについて保存や活用の可能性などを固め、改修するかどうかを判断する。

 今回の先送りは、19年度当初予算の編成過程で定まった。県は改修案に基づく19~20年度の事業費を4億2200万円と積算。20年度分をあらかじめ確保する債務負担行為を含めて19年度の一般会計に計上する方向で調整を始めたが、県議会(定数64)から疑問が出たため軌道修正した。

 改修案では、爆心地に最も近い1号棟の外壁や屋根について、老朽化で生じた亀裂を直したり、雨漏りを防いだりして、劣化を防ぐとしていた。また、1号棟と南隣の2号棟の間に、見学者用の建物(平屋約130平方メートル)を新設。現地を訪れる修学旅行生たちが、建物内での被爆証言などを聞くスペースやトイレを備えると打ち出していた。

 県は18年12月の県議会常任委員会で改修案を説明。一連の工事には19年度に着手し、1年半程度で完了する方針を示していた。

 しかし19年度当初予算の編成では、県議会の最大会派の自民議連(30人)の幹部たちが財政負担の重さを懸念。「将来的に2、3号棟も改修すれば、10億円規模の大事業になる。3棟全体をどうするのかの方向性をまずは固めるべきだ」などと注文したという。

 これを受けて、県側は改修案の実施を先送りする方針に転換。開会中の県議会定例会に提出済みの19年度一般会計当初予算案では、外壁の補強方法の調査費用など計上額を9500万円とした。1号棟の補修や見学用建物の新設費用などを除いたため、積算額と比べて4分の1にとどまった。

 県総務局の竹中正博局長は「まずは保存についての考え方を整理・検討する。今後の方針は有識者や関係者の考えを聞いて判断したい」とする。市民団体「旧被服支廠の保全を願う懇談会」の中西巌代表(89)=呉市=は「活用への歩みが滞るのは残念。声なき被爆者である建物の価値を重んじ、活用につながる方向で検討してほしい」と願う。(樋口浩二)

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設で、1913年に完成した。爆心地の南東約2・7キロにあり、13棟あった倉庫のうち4棟が残る。いずれも鉄筋コンクリート・れんが造り3階建てで、県の1~3号棟はいずれも延べ5578平方メートル、国の4号棟は延べ4985平方メートル。戦後、広島大の学生寮や県立広島工業高の校舎などに利用されたが、95年以降は使われていない。現行の耐震基準も満たしておらず、県は1棟全体を耐震化するためには約33億円が必要としている。

(2019年2月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ