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社説・コラム

社説 平和賞にトランプ氏推薦 政治利用の度が過ぎる

 お追従にもほどがある。そう言わざるを得ない。昨年、安倍晋三首相がトランプ米大統領側からの依頼に応え、同氏をノーベル平和賞の候補に推薦していたことが分かった。トランプ氏自身が先週、記者会見で自慢げに語って明らかになった。おととい国会で真偽を問われた首相は言葉を濁したが、複数の日本政府関係者が認めている。

 トランプ氏は北朝鮮との緊張をある程度緩和したと言えるかもしれない。だが核兵器削減に背を向けているばかりか、人権意識の欠如や排外主義は、国際社会から批判を浴びている。にもかかわらず平和賞に推薦したのでは、日本の国際的な信頼を失いかねない。

 「リーダーシップを高く評価している」。おととい衆院予算委員会で、首相はトランプ氏をそう持ち上げた。北朝鮮の核・ミサイル問題の解決へ果断に対応し、歴史的な米朝首脳会談も果たしたという認識を述べた。

 しかしその会談も、成果を上げたとまでは言えない。核・ミサイル問題も拉致問題も解決には至っていない。

 立憲民主党会派の議員からの批判に、首相はこうも答えた。「御党も政権を奪取しようという考えなら、同盟国の大統領には一定の敬意を払うべきだ」。政権の座に就けば、対米従属はやむなし、と言うのだろうか。

 高く評価しているというのなら、なぜ推薦したと認めないのか。国民の納得が得られるように説明すべきだ。

 推薦者と被推薦者を50年間明かさない―というノーベル賞委員会のルールを持ち出し、事実関係を認めない理由としたが、各国に義務はあるまい。実際、推薦されたトランプ氏本人が明かしているのだ。その「暴露」に抗議しないあたり、やはり米国には物が言えないのか。

 10年前、前大統領のオバマ氏は「核なき世界」を提唱して平和賞を受けた。そのスローガンこそ尻すぼみになりはしたが、トランプ氏はどうだろう。

 中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄をロシアに通告し、イラン核合意からの離脱も表明した。小型核弾頭の製造も進めるという。核兵器削減という世界的な流れに逆行するものだ。

 やはり平和賞受賞団体の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))が国連の採択に道を開いた核兵器禁止条約にも反している。被爆国として決して容認するわけにはいかない。

 さらに地球温暖化防止に向けたパリ協定からの離脱表明で、国際協調を揺るがしてもいる。一体どこが平和賞にふさわしいというのか。

 このところ日本政府はトランプ氏のいいなりになっているように映る。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」や最新鋭ステルス戦闘機F35を言い値で購入するなど、いずれも米側の意向に沿うものだ。

 さらにトランプ氏の来日を、5月26日で調整していることが分かった。新天皇が即位した後の最初の国賓として迎え、機嫌を取る意図がうかがえもする。

 トランプ政権としては同盟国による平和賞推薦を功績として大統領再選に弾みをつけたいのだろう。だが日米両国ともノーベル平和賞を政治利用しようとの思惑が強過ぎる。真にふさわしい人物、団体に贈られることを願うばかりである。

(2019年2月20日朝刊掲載)

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