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伝承者 初心貫き活動へ 研修途中で「先生」死去 鳥越さんの遺志継ぐ

他の被爆者と講話実習

 元小学校教諭で被爆証言者だった広島県府中町の鳥越不二夫さん(昨年6月、87歳で死去)の思いが、広島市の被爆体験伝承者事業で受け継がれる。8人が3年間の研修を受けていたが、本人が途中で亡くなったため、制度上、体験を代わりに伝えられない恐れがあった。市の方針見直しで、4月にも鳥越さんの伝承者が生まれる予定だ。(桑島美帆)

 鳥越さんは爆心地から約2キロの山手町(現西区)で被爆し、顔や首、両腕に大やけどを負った。定年退職後、語り部活動を本格化。喉元に残るケロイドを見せながら、小中学生らに命の大切さを訴えていた。

 伝承者事業の「先生」に名乗りを上げ、2016年度から計8人の研修生を受け入れた。しかし肝不全で亡くなり、最終の講話実習に入っていた段階で養成が宙に浮く。「鳥越さんの遺志をつなぎ、伝承者として活動したい」。研修生たちが市平和推進課に直訴するなどした結果、市側はほかの被爆者の下で講話実習を続ければ、鳥越さんの伝承者として活動を認めることにした。

 現在、広島市内の40~70歳代の7人が笠岡貞江さん(86)=西区=から子どもたちに分かりやすく話すこつなどを学んでいる。安佐南区の被爆2世、河内悦枝(よしえ)さん(70)は「鳥越さんが一生懸命語られる姿に感動し、私も伝えていかんといけんと思い研修を受け始めた。ここでやめるわけにはいかなかった」と語る。実習が終了すれば広島平和文化センターから委嘱を受け、伝承者としてデビューする。

 語り部本人が直接指導し計3年間の研修が必要な現行制度では、今後も同様のケースが予想される。市国際平和推進部の中川治昭被爆体験継承担当課長は「体験を次世代につなぐため、研修生たちに強い思いがある場合などは制度を柔軟に運用していく」と説明している。

(2019年2月25日朝刊掲載)

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