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社説・コラム

社説 米朝首脳再会談 非核化へ不断の交渉を

 北朝鮮の非核化を巡り、ベトナムの首都ハノイで約8カ月ぶりの交渉に臨んでいたトランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談は事実上、物別れに終わった。

 会談の内容は定かでないものの、両者とも中途半端な合意にとどまるより、仕切り直しを選んだということだろう。

 トランプ氏は来年の大統領選で再選を目指し、裁量の利く外交で目に見える成果の獲得に焦っていた節がある。内容の乏しい合意に署名しなかったのは、賢明な判断だったといえよう。

 米側は今後も、北朝鮮との協議を続ける意向を示す。朝鮮半島の完全非核化に向け、たゆまず交渉を進めてもらいたい。

 2日間にわたった首脳会談は途中まで、和やかな雰囲気だった。合意文書に署名予定のきのうは、詰めとなる拡大会合で金氏が珍しく外国メディアからの質問に直接答え、意気込みを見せていた。平壌への米連絡事務所の設置については「歓迎すべきことだ」とし、トランプ氏も「良いアイデアだ」と歩調を合わせるなど、話し合いの順調さをうかがわせる場面もあった。

 それがなぜ、一転したのだろうか。

 トランプ氏は今回、「(核・ミサイルなどの)実験がない限り、スピードは重要ではない」「急いでいない」といったメッセージを繰り返し、強調してきた。それが金氏には、渡りに船と映ったのかもしれない。

 会談後の記者会見でトランプ氏が、かさにかかったような金氏の主張を明かしている。「北朝鮮が制裁の全面解除を求めてきた」というのである。

 制裁の解除を求めるなら、まず完全非核化の道筋を示すことが絶対条件である。

 シンガポールでの初会談の合意事項であり、日本にとって最大の関心事である完全非核化には、北朝鮮による「申告」が大前提となる。すなわち、核兵器や核関連施設が領内のどこに、どれだけあるのか、全体像がつまびらかにされない限り、非核化に至るロードマップ(行程表)は見通せない。

 米側が協議を打ち切り、席を立ったのは当然だろう。

 拡大会合に加わったポンペオ米国務長官は「36時間前より合意に近づいた」と述べた。それなら、両首脳が記者会見に並んで感想を述べればよかった。強がりとしか受け取れない。

 初会談から約8カ月間、具体的な進展が見られなかった。だからこそ今回、トップ同士の直接交渉で打開しようとしたはずである。

 日本にとって関心の高い拉致問題についても首脳会談で触れたと、トランプ氏は安倍晋三首相への電話で伝えてきたという。肝心の米朝交渉で手間取る中、踏み込んだ議論に及んだのかどうか、残念ながら判然としない。引き続き、拉致問題を解決に導けば、米国も評価するという構図を、北朝鮮が心得るように仕向けたい。

 もちろん、非核化や拉致問題で一ミリたりとも北朝鮮には譲らぬよう、安倍首相は今後とも米側にくぎを刺し続ける必要があろう。とりわけ非核化では、核物質を隠し持つような抜け道を許さない「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の目標について、ゆるがせにすべきではない。

(2019年3月1日朝刊掲載)

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