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連載・特集

地上イージス 二つの候補地 <1> 山口から

 北朝鮮への弾道ミサイル防衛の強化策として導入される地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」。国は昨年6月、陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)と新屋演習場(秋田市)を配備候補地と公表し、地元説明を繰り返す。すでに本体取得費は予算計上され、新年度にも配備先を正式決定する見通しだ。国策に翻弄(ほんろう)される二つの候補地の現状を河北新報と合同で報告する。

2人の首長

国防・地域振興で温度差

 対照的な場面だった。昨年12月25日の夕刻、山口県庁の応接室。地上イージスの配備候補地の地元首長2人は新任の防衛副大臣と対面していた。

 副大臣の現地視察を兼ねたあいさつ回り。地上イージスに話が及ぶと、萩市の藤道健二市長は「国益にかなうなら、まちづくりに障害が生じる恐れがあるというだけで反対の立場は取らない」と伝えた。一方、同県阿武町の花田憲彦町長は「町の存亡に関わる。配備は断念を」と訴えた。

是非判断示さず

 日本列島の東西2カ所で配備予定の地上イージス。西日本は陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)が候補地とされる。地元で反発が強まる中、最初に動いたのは阿武町だった。昨年9月、花田町長が自治体トップとして初めて反対を表明した。

 藤道市長は現時点で是非の判断を示していない。「萩市も地方自治体の一つで国の防衛政策で守られている」とし、副大臣との面会では「国防とまちづくり」を巡り、両首長の温度差が際立った。ただ、今月7日の市議会一般質問では「国益」「市民の安全安心」「まちづくりが阻害されない」の三つを判断基準に挙げており、その発言には微妙な変化もみられる。

移住に力 社会増

 花田町長が反対するのには理由がある。人口約3300人の単独町。海と山に囲まれた自然を売りに移住施策に力を注ぎ、過疎地域ながら転入者が転出者を上回る「社会増」を実現した。唐突な配備計画は移住者離れを招きかねず「町が進めてきたまちづくりを根底から覆す」と危惧する。

 阿武町では2月、配備撤回を求める住民が「町民の会」を設立。吉岡勝会長(65)は花田町長との面会で町との連携を確認した。移住者も輪に加わり、町全体で反対の機運は高まる。

 ただ、むつみ演習場は萩市と合併した旧むつみ村に位置する。合併しなかった阿武町には演習場への進入路の一部が通るにすぎず、純粋な候補地の自治体ではない。そのため地元の自民党県連関係者は「萩市の意向が重要。阿武町が反対しても参考意見だ」と冷ややかな視線を送る。

 実は萩市でも阿武町に先んじて住民組織が立ち上がっている。これまでに2万人を超す反対署名を集めている。森上雅昭代表(66)は「むつみ地区だけでも過半数が反対している。ぜひ市長に届けたい」と力を込める。だが、藤道市長との面会はまだ実現していない。国益と民意のはざまで揺れる首長の決断は新年度に持ち越される。(和多正憲)

山口県阿武町
 山口県北の日本海沿いに位置する。総面積約116平方キロ。人口約3300人(1月末時点)。萩市の陸上自衛隊むつみ演習場に隣接する。国は演習場への進入路として町有地約1300平方メートルを借り上げている。

中国新聞・河北新報共同企画

(2019年3月19日朝刊掲載)

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