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連載・特集

地上イージス 二つの候補地 <3> 山口から

日米一体化 宇宙も視野 軍備着々と

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備候補地の陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)から南西に約90キロ。山陽小野田市でもう一つの最新鋭の軍事施設の計画が進む。人工衛星に衝突する宇宙ごみを常時監視する地上レーダーの建設だ。だが、配備先の自衛隊施設跡地の鉄扉は閉ざされたまま。地元住民ですら存在を知らない人が多い。

 「人の出入りもなく、近所で話題にもならん」。建設予定地そばの高橋春雄さん(74)はいぶかる。2017年11月、市主催の防衛省の住民説明会に参加した。「その後は音沙汰ない。北朝鮮のミサイルは関係ないようだし、国が平和利用というから信じるしかない」

 地元の関心が薄い中、国の計画は着々と進んだ。昨年12月、防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」を5年ぶりに改定。宇宙など「新たな領域」強化を打ち出し、宇宙監視レーダーに対応する専門部隊の創設も明記。新年度予算で配備に伴う関連費も計上している。

 防衛省は、イージス・アショアと同じ23年度の運用開始を予定。同市総務課は「国から今後工事に入ると聞いた。新年度に再び説明会を開きたい」と話す。

衛星攻撃を監視

 「地上イージスと同様に宇宙監視レーダーも米軍と自衛隊の連携強化を象徴する軍事施設だ」。軍事評論家の前田哲男氏はこう指摘する。実際、防衛省は米軍と情報共有し、宇宙ごみに加え、他国の人工衛星を攻撃する「キラー衛星」も監視対象とする。

 「仮想敵国はやはり中国とロシアだろう」と前田氏。両国とも衛星攻撃兵器の開発を進めており、中国は07年に衛星破壊実験にも成功した。米国も宇宙空間を「新たな戦場」と位置づけ、トランプ米大統領は今年2月、「宇宙軍」創設への指示書に署名している。

「見えない戦場」

 「世界全体で大変な役割を担う場所。感謝してもしきれない」。昨年6月末、小野寺五典前防衛相は県内での講演時、宇宙監視レーダー建設への地元理解をたたえた。地上イージス計画や「極東最大級」となった米軍岩国基地(岩国市)にも触れ「安全保障上、重要な役割を担う」と述べた。

 新大綱では陸海空の垣根を越え、宇宙やサイバー空間でも作戦能力の融合を目指す。すでに15年改定の日米防衛協力指針(ガイドライン)で米軍との連携強化を掲げた分野だ。それは地域からは「見えない戦場」へと日本が踏み出すことも意味する。(和多正憲)

宇宙監視レーダー
 米軍や宇宙航空研究開発機構(JAXA)と情報共有し、24時間体制で宇宙空間を監視。故障などで役割を終えた人工衛星などの宇宙ごみや不審な人工衛星を警戒する。山陽小野田市の海上自衛隊山陽受信所跡地(約13万4千平方メートル)に建設。航空自衛隊に新設する「宇宙領域専門部隊」が対応し、2023年度の運用開始を目指している。

中国新聞・河北新報共同企画

(2019年3月21日朝刊掲載)

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