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社説・コラム

社説 新たな自衛官派遣 国会の議論欠かせない

 政府は、エジプトのシナイ半島で同国とイスラエル両軍の停戦を監視している多国籍軍・監視団(MFO)の司令部要員として、陸上自衛隊の幹部自衛官2人を派遣する。

 2016年施行の安全保障関連法で新設された「国際連携平和安全活動」として、国連が統括しない多国籍軍の軍事的な活動に自衛官を派遣する初めてのケースとなる。

 政府は、MFOからの派遣要請が以前からあったというが、詳細を明らかにしていない。なぜ今なのか、緊急性や必要性についても政府の説明は不十分と言わざるを得ない。

 安保関連法を適用した新たな活動の実績作りが狙いだとしたら乱暴すぎはしないか。政府の判断だけで、自衛隊の活動がなし崩し的に広がっていく懸念が拭えない。MFOを含む自衛隊の海外派遣について、国会で徹底した議論が欠かせない。

 シナイ半島は、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領し、79年のエジプト・イスラエル平和条約に基づき、エジプトに返還された。MFOは同半島の平和維持を目的に82年に設立され、米国を中心に12カ国から約1200人の軍人が派遣されている。

 自衛官2人の派遣期間は19日から11月30日まで、イスラエル、エジプト両国の連絡仲介を主な任務とする。拳銃と小銃を携行するが、戦闘行為に直接関与しないという。

 シナイ半島は、治安情勢が比較的安定しているとされる。政府も現地調査の結果、安全が保たれ、自衛官の勤務環境に問題がないと判断したという。

 国際貢献の必要性は認める。ただ中東では、米国が、イスラエルの主張するゴラン高原の主権を正式に承認するなど、新たな緊張の火種がくすぶっているのも事実だ。万が一の事態が起こらないとも限らない。

 MFOは米軍主導の活動である。今回派遣される自衛官が、米軍の指揮下に入り、より危険な任務に従事させられる可能性はないのか。この点でも、政府にはしっかりとした説明が求められる。

 そもそも安保関連法は、ほとんどの専門家から「違憲性」を指摘されている。歴代政権が憲法上許されないとした集団的自衛権の行使を、安倍政権が憲法解釈の変更によって認めたからだ。

 安保関連法の施行から3年たつが、その疑念はいっこうに晴れていない。その一方で、政府は実績作りを積み重ねる。

 南スーダンの国際平和維持活動(PKO)に派遣された陸自部隊に「駆け付け警護」を付与したほか、自衛隊が米軍の艦艇などを守る「武器等防護」の実施を増やしている。

 安保関連法が定める多国籍軍や機関への自衛隊派遣に対しては、国民の間でも依然として反対論は根強い。想定される活動の内容の議論は積み残したままである。今回のMFO派遣をその突破口にしようと考えているのなら見過ごせない。

 安倍政権は「防衛計画の大綱」を見直し、空母保有や長距離巡航ミサイルの導入など、平和憲法が定めた「専守防衛」から逸脱するような動きが目立つ。いま一度、自衛隊の国際貢献の在り方について、国会で議論を深める必要がある。

(2019年4月10日朝刊掲載)

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