×

社説・コラム

社説 空自ステルス機墜落 105機追加購入 大丈夫か

 同型機では初めての墜落事故という。航空自衛隊三沢基地(青森県)の最新鋭ステルス戦闘機F35Aがおととい夜、青森県沖の太平洋上で墜落した。乗っていた3等空佐の救出に全力を挙げてもらいたい。

 戦闘機のパイロットとしての経験は豊富で、4機での訓練の編隊長を務めていたという。事故直前、他の3機に「訓練中止」を宣言したそうだ。機体に何らかの異変が起きたことに気付いていたのではないか。原因の究明も急がねばならない。

 墜落したのは基地から100キロ余り東の海上だった。それでも基地周辺の住民は不安を募らせる。「一歩間違えれば…」と思うのも無理はなかろう。

 三沢基地では昨年2月、米軍のF16戦闘機が離陸直後にエンジン火災を起こした。人に被害はなかったが、基地北側の小川原湖に燃料タンクを2個投棄したことは記憶に新しい。

 F35Aは、老朽化した旧型の後継機で、製造への国内企業参加は初めてだった。三沢基地では先月下旬、12機で飛行隊が発足し、ようやく訓練が本格化していた。おとといは戦闘機同士の戦いを想定して訓練中の4機のうち1機が墜落した。レーダーに映りにくいステルス性能を持っているが、訓練中は位置情報を発信して飛行を把握できるようになっていたそうだ。

 事故を受け、防衛省はすぐに同型機の飛行を当面見合わせることにした。原因を特定するまで必要なことだろう。

 米軍岩国基地(岩国市)には同じF35でもB型が配備されている。米空軍仕様のA型と違い、海兵隊仕様で垂直着陸や短距離での離陸ができるという。

 気になるのは政府がA、B両型のF35を105機追加購入すると決めたことだ。米国への配慮があったとも推測されている。B型より安いA型でも1機100億円を超す。維持費も高く、30年運用する場合は1機300億円に上るとの試算もある。購入費を含めた100機の合計だと4兆円を上回る。驚くほどの額と言えよう。

 安全性も疑わしい。米国では2014年、離陸前にエンジン付近から火が出るトラブルが発生。17年には飛行中に操縦士が低酸素症に似た症状を訴える事例が短期間に5件相次いだ。

 昨年6月には、米政府監査院が千件近い技術的問題が見つかったと指摘した。うち100件以上は安全性や重要な性能を危険にさらす問題があるという。深刻だと言わざるを得ない。きちんと対応したのか、防衛省やメーカーは説明が求められる。

 政府はF35を「近い将来の防空の要」と位置付け、今保有している350機近い戦闘機の半分近くを切り替える方針だ。それほど評価するのであれば、安全性を米国任せにせず、自ら厳しくチェックしなければなるまい。巨額のつけの支払いを余儀なくされるのは私たちである。

 F35Aには長距離巡航ミサイルを搭載させる計画だ。南西諸島防衛のためで射程は最長900キロ程度という。F35B搭載を念頭に海自の護衛艦「いずも」を事実上の空母に改修する方針もある。敵基地攻撃能力につながり、「専守防衛」という憲法の枠を踏み外しかねない。軍拡競争をあおらないか不安も残る。必要性を含め105機の追加購入は再点検すべきだ。

(2019年4月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ