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連載・特集

ホロコーストの中の子どもたち 福山の記念館 所蔵品から <1>

 今年、「アンネの日記」で知られるアンネ・フランクの生誕90年を迎える。福山市御幸町のホロコースト記念館は、ナチス・ドイツのユダヤ人迫害(ホロコースト)を伝える日本初の資料館として、1995年に開館し世界から千点を超える遺品や資料を集めてきた。ホロコーストではアンネのように犠牲になった子どもが約150万人に上る。同館を設立した大塚信館長(70)の解説で、所蔵品5点を紹介する。

15センチ あまりに小さな靴

 ホロコースト記念館の展示はヒトラーの台頭、ユダヤ人の大虐殺へと進み、小さな15センチの靴が置かれた一室に導かれる。ポーランド・ルブリン市郊外のマイダネク収容所に残されていた何万足もの靴の一つ。「あまりにも小さくて、あまりにもかわいくて、あまりにも悲しいくつ」。日本画家の故村田茂樹氏はこの靴を絵に残し、そう表現した。

 1933年から45年の12年の間「ユダヤ人として生まれた」という理由で、150万もの子どもの命が絶たれたホロコースト。当館は展示品を厳選し、解説も最小限にとどめている。なぜホロコーストの悲劇を人間がつくり出すに至ったのか、犠牲者にあったはずの未来は―。遺品一つ一つの背景をじっくりと想像してもらうためだ。

 この靴が、誰のものかは分からない。だが、靴に対面した来館者は、1人の尊い子どもの命が150万回も失われたのが、ホロコーストだったと気付く。凜(りん)とした静けさの中に、生涯忘れることのない印象を抱くだろう。

(2019年4月22日朝刊掲載)

ホロコーストの中の子どもたち 福山の記念館 所蔵品から <2> アンネ 幸せのメロディー

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ホロコーストの中の子どもたち 福山の記念館 所蔵品から <4> 死体焼却 焦げたれんが

ホロコーストの中の子どもたち 福山の記念館 所蔵品から <5> 収容服 過酷な生活語る

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