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社説・コラム

天風録 『原爆資料館の問い』

 きのう展示を一新した広島市の原爆資料館は開館前から長い列ができていた。先頭には日本人の母と一緒にドイツから来た14歳の少年。広島滞在を1日延ばして、本館を見に来たという▲修学旅行で毎年来ている鳥取県の小学6年生の一団も。照明を抑えた本館で被爆者の写真や遺品に向き合う。動員学徒の衣服やかばん、中身が黒焦げの弁当箱も並ぶ。ペンを走らせたり目頭を押さえたり…。何かを心に刻もうとしているのだろうか▲あのドイツの少年は同い年の子どもが味わった痛みが印象に残ったそうだ。本館では犠牲者の多さでなく、一人一人の悲しみの深さを受け止めてもらいたいとの願い通りなのだろう。被爆者の人数など、データは東館に展示しているという▲本館に置かれた対話ノートには、各国の言葉を含め初日から多くの感想が記されていた。展示を見て心に刻んだ思いを、どうやって行動に結びつけるか。資料館を訪れた人それぞれに課される宿題になればいいのだが▲こんな感想に目が留まった。<原爆がなぜつくられたか忘れてはいけない。「かわいそう」で終わらせていいことじゃないからだ>。核なき世界に向け、問いを発し続けなければ。

(2019年4月26日朝刊掲載)

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