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社説・コラム

社説 憲法施行72年 改正論議 なぜ急ぐのか

 日本国憲法の施行から、きょうで72年となった。その存在が私たちの自由や平等を支え、平和な生活を送る礎となっている。令和という新たな時代を迎えても変わることはあるまい。

 その憲法を改正し、2020年施行を目指し、安倍晋三首相が前のめりになっている。昨年3月には自民党総裁として9条への自衛隊明記など4項目の改正条文案をまとめ、国会への提示を探っている。

 夏の参院選で自民、公明両党など「改憲勢力」が3分の2を超す議席を維持し、早期の国会発議につなげたいのだろう。

 だが国会での議論は低調だ。衆参の憲法審査会は1年以上実質審議をしていない。安倍氏に近い萩生田光一幹事長代行は4月中旬、「『令和』の時代になったら、少しワイルドな憲法審査を進めたい」と審査会を批判した。議論をしようという態度とは思えない。傲慢(ごうまん)過ぎよう。

 自民党幹部が陳謝したことで、衆院の審査会は今月9日以降、実質的な討議に入ることを決めた。同党は改正条文案の議論を求める意向だ。

 しかしなぜ今改憲なのか、なぜ4項目か。国民に十分説明されていない。党内にも戦力不保持をうたう9条2項を削除すべきだとの意見があり、詰め切れたとは言い難い。今、国会で議論するのは拙速ではないか。

 それでも首相は近年、事あるごとに改憲への意欲を表している。9条改正の「論拠」も示すが、説得力に乏しい。一例が2月の衆院予算委員会での発言だ。自衛官募集に6割の自治体が非協力的と指摘し、9条への自衛隊明記で解決できると訴えた。だが実際は9割の自治体が協力しており反発を招いた。

 国民は改憲を望んでいるのだろうか。共同通信社が4月に行った世論調査では、安倍政権下での改憲に54%が反対している。9条改正の賛否では「必要ない」47%、「必要がある」45%と二分している。

 にもかかわらず、政権が率先して9条改正議論へ動きだすのは、20年改憲施行という首相の目指すスケジュールありきと言わざるを得ない。

 そもそも憲法とは何か。権力の暴走を防ぎ、律する存在であることを忘れてはなるまい。その立憲主義という歯止めを政権は無視しているかのようだ。

 3年前に施行された安全保障関連法は、集団的自衛権の行使を容認するとして、ほとんどの専門家から「違憲性」を指摘される中、数の力で可決した。

 その法律で新設された「国際連携平和安全活動」として、政府は4月に初めて、国連が統括しない多国籍軍の軍事的な活動に自衛官の派遣を決めた。「緊張」の火種がくすぶるエジプトのシナイ半島である。歴代の自民党政権も尊重してきた「専守防衛」を、逸脱する動きが安保法施行後に続いている。

 2年前には、憲法に基づく野党の臨時国会開会要求を3カ月間放置し、開会しても冒頭で衆院を解散した。こうした憲法をないがしろにするような姿勢は、立憲主義への挑戦に他ならない。憲法を守る謙虚な姿勢こそ、政権には求められる。

 国民の関心が盛り上がらないのに、改正論議を急ぐ必要はない。首相はもっと冷静に民意を探り、憲法の重みと果たしてきた役割を見つめ直すべきだ。

(2019年5月3日朝刊掲載)

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