×

社説・コラム

天風録 『ピカソとヒトラー』

 先日のスペイン総選挙で、移民に厳しい政策を掲げた極右の新政党が初めて議席を手にした。独裁者フランコの死後45年近くたっているが、複雑な思いを抱く市民もいるようだ▲スペイン内戦のさなか、フランコは後ろ盾のドイツに田舎町ゲルニカを無差別爆撃させた。この時、パリで祖国の悲報に接したピカソはあの大作を一気に描く。戦闘員でもない市民を巻き込んだ暴虐への怒りの象徴として全世界の注目を集めたのだ▲ナチスは「退廃芸術」とレッテルを貼って嫌う。果ては、占領した国々から60万点近い美術品を略奪した。先月、日本で公開された記録映画「ヒトラーVSピカソ」では、ピカソの作品もおとしめられ、見せ物にされた歴史が分かる▲だがピカソは占領下のパリで一泡吹かせた。写真のゲルニカを見たナチスの将校に「君が描いたのか」とただされて「いや、あんたたちだ」と切り返す。空襲がなかったら描きはしなかったと言いたかったに違いない▲絵は今は祖国に帰り、空襲を受けた街には平和資料館ができた。そのスタッフがこの秋、広島の原爆資料館を訪れる。やはり罪なき人々をあやめたものを、私たちはどう描いてきたかと問うてみる。

(2019年5月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ