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社説・コラム

社説 令和の課題 北朝鮮の非核化 瀬戸際外交に戻るのか

 平成の初め、北朝鮮は核兵器開発に着手した。廃棄を迫る国際社会の取り組みは道半ばだ。

 北朝鮮は先週実施した日本海側での軍事訓練で、複数の飛翔(ひしょう)体を発射した。米国や韓国の専門家の多くは、新型の短距離弾道ミサイルだとみている。

 事実であれば、2017年11月の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15号」以来のミサイル発射となる。翌12月に国連安全保障理事会が北朝鮮に対して採択した、短距離も含めた弾道ミサイルの発射を禁じる制裁決議への明らかな違反である。

 韓国軍によると、飛翔体は最長で240キロ飛んだ。既存の短距離弾道ミサイル「KN02」より飛距離は長く、韓国や在韓米軍には脅威となるとの指摘もある。深刻な事態と言えよう。

 北朝鮮の狙いは何だろう。挑発的な言動で譲歩や妥協を引き出そうとする「瀬戸際外交」に逆戻りするつもりなのか。

 国連決議による経済制裁が効いているのは間違いあるまい。2月にベトナムのハノイであった2度目の米朝首脳会談が決裂するなど交渉停滞による焦りもあろう。国内で不満が広がらないよう強硬な姿勢を見せつつ、米本土に達するICBMは避けて虎の尾は踏まないよう配慮した。綱渡りのようにも見える。

 先月下旬、金(キム)正恩(ジョンウン)朝鮮労働党委員長はロシアのプーチン大統領と初めて会談した。非核化を巡る「朝鮮半島問題が原点に戻りかねない危険な状況になった」と米国の対応を批判した。後ろ盾となるようロシアに誘いをかけようとしたのだろう。

 韓国や中国が以前ほど頼りにならず孤立しかねないとの危機感が背景にありそうだ。韓国の文(ムン)在寅(ジェイン)大統領は先月、北朝鮮が主張している段階的な非核化と制裁の緩和をトランプ米大統領に提案して冷たくあしらわれた。中国も、貿易問題を巡って米国との対立が激化している。

 どう対応するかトランプ米政権は苦慮しているようだ。専門家が弾道ミサイルだと指摘しているにもかかわらず、認めようとはしていない。ポンペオ国務長官は弾道ミサイルかどうかは分析中としながら、米本土に届くICBMではなかったことを強調。「米国や韓国、日本に脅威を与えなかった」と述べた。

 もしミサイルだと認めれば、北朝鮮を批判せざるを得ず、非核化交渉がストップすることになりかねない。それを避けることを優先して考えたようだ。

 さらに苦しい立場に追い込まれたのは韓国ではないか。「北朝鮮には非核化交渉を決裂させる意図はないとみられる」との見方を示している。自ら演出してきた融和ムードを打ち消したくないのだろう。

 国際社会が揺さぶりを容認すれば、挑発がエスカレートしないか気掛かりだ。

 日本にとっても正念場だ。2月の米朝首脳会談で金委員長は「拉致問題は解決済み」との従来の立場を口にしなかったという。歩み寄りの可能性があるとみて対話には無条件で臨むよう方針を転換する。過剰な期待で前のめりになり、足元を見られぬようにしなければならない。

 北朝鮮は核実験やICBM発射実験の停止を昨年春に表明した後も、軍備を強化し続けている。朝鮮半島の完全非核化に向け、国際社会はあらためて連携を強めていく必要がある。

(2019年5月8日朝刊掲載)

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