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社説・コラム

天風録 『北方領土「戦争」発言』

 田中角栄元首相は、政治家の言葉の使い方について次のように分類していた。「言っていいこと・悪いこと、言っていい人・悪い人、言っていい時・悪い時」があると。中身と相手、そしてタイミングの3条件をわきまえよと教えた▲この人の発言は、政治家以前の問題であろう。日本維新の会の丸山穂高衆院議員が、北方領土について「戦争をしなければ、島は取り返せないのでは」などと言い放った。ビザなし交流訪問団に参加し、国後島を訪れていたときというからあきれる▲「戦争をするべきでないし、したくない」。旧ソ連によって故郷を奪われた元島民たちの言葉に心が痛む。3条件とも最悪の発言だ。謝罪し撤回もしたが、取り返しはつくまい。軽々しく「戦争」という言葉を使ったこと自体、政治家として不適格である▲そもそも何のために北方領土まで出掛けたのか。ロシア側からは、日ロ関係を巡る「最もひどい発言だ」といった批判の声も上がる。進展しない領土交渉にも、悪影響を及ぼしかねない▲党も「あるまじき行為」と除名処分にすることにしたようだが、当然のことだろう。せめて議員を辞めるタイミングくらいは、外さないでもらいたい。

(2019年5月15日朝刊掲載)

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