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社説・コラム

『潮流』 最悪な「手土産」

■ヒロシマ平和メディアセンター長 吉原圭介

 散歩中に目にするアジサイが、早いところでは咲き始めた。梅雨入り間近。そして梅雨明け時には参院選のさなかかもしれない。

 そんな中、米国のトランプ大統領が来日した。前日にはカリフォルニア州にあるローレンス・リバモア国立研究所が、臨界前核実験を2月にしていたことを発表している。まさに最悪な「手土産」を持って、核兵器を落とした国のトップが、その被害に遭った国を訪れたのである。

 外交の常道として訪問先の国の微妙な問題に配慮するのは当然である。日本側もその発表を事前に知らされていて不思議はない。ならばなぜ、それが来日の前日なのか。なぜ、日本側はそれを受け流したのか。

 被爆者をはじめ被爆地から抗議の声が上がった。ところが両首脳はゴルフや相撲観戦を楽しんだようだ。本紙広場欄に寄せられた「そんな時間があれば広島を訪問するべきだ」との意見に共感する人は多いだろう。4日間もあったはずである。

 3年前の5月27日、現職大統領として初めてオバマ氏が広島を訪れた。わずか52分の滞在であり、その評価はさまざまだ。大統領選を来年に控えるトランプ氏としては、あえて同時期に訪日したのかもしれない。「オバマとは違う」という姿勢を米国内に示したかったのかもしれない。

 日本側はどうか。少なくとも表舞台で臨界前核実験にもの申したようには見えない。それどころかあのような手土産をもらいながら「サンキュー、ドナルド」と蜜月ぶりをアピールする。貿易交渉については「参院選までは待つ」との借りをつくった。

 政府は日本の国益を考え一連の演出をしたと信じたい。ただ成果を国民に示す必要があるだろう。時間はない。柄にもなく、アジサイの花言葉を調べてみた。「移り気」とあった。

(2019年5月30日朝刊掲載)

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