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社説・コラム

社説 イラン沖 タンカー攻撃 非難の応酬やめ冷静に

 イラン沖のホルムズ海峡近くで日本の海運会社が運航する船を含むタンカー2隻が攻撃された。引火しやすい化学物質の積載船である。乗組員1人が軽傷を負った。無防備な商船が攻撃されたことに強い憤りを覚える。攻撃した組織の特定を急ぎ、航行の安全を取り戻さねばならない。

 米国、サウジアラビアなどとイランの対立激化で緊張高まる中東地域での事件。それも米国との橋渡しのため、イランを訪れた安倍晋三首相が最高指導者ハメネイ師と会談した日に起きた。緊張緩和を快く思わない勢力の仕業とも考えられる。

 その「思惑」通り、米国とイランは早速、相手の関与を疑い非難し合う。核合意の履行継続へ仲介を試みたが、事件で対立を深めた格好だ。これ以上、事を荒立ててはならない。両国が冷静に対処するよう、国際社会は働き掛ける必要がある。

 日本企業のタンカーはメタノールを積んで航行中だった。現地の13日午前、攻撃されて出火したが消火。約3時間後に再度攻撃されたため、フィリピン人乗組員は全員退避した。ナフサを積んだ台湾石油大手のタンカーも攻撃され、火災を起こした。

 ポンペオ米国務長官は「イランに責任がある」と主張。情報機関の分析からイランの犯行だと断定したという。早計だろう。機雷を回収するイラン革命防衛隊だとする映像まで米軍は公表したが、断定はできない。

 一方のイランは関与を否定し、米国への非難を強める。非難の応酬によって緊張が高まれば、偶発的な衝突に発展しかねない。攻撃した者は不明だが、まずは冷静に背景を分析する必要がある。両国に対して自制を促しつつ、中東地域の不安定化を企図する勢力や陰謀の排除へ、力を合わせたい。

 ホルムズ海峡は海上交易の要衝だ。世界の海上輸送石油の約3割が通過する。日本にとっては輸入原油の8割以上が通る。そこでタンカーが攻撃された衝撃は大きい。一時、先物相場で原油価格が高騰した。海域では先月もサウジの石油タンカーなど4隻が攻撃を受けた。安全な航行が確保できなければ世界経済を揺るがしかねない。

 今回、日本の商船が攻撃された。政府はどう対処するか。直ちに自衛権を発動する対象ではないとしている。当然だろう。船舶を護衛する自衛隊の海上警備行動が可能ではあるが、まずは事態の推移を注視すべきだ。慎重な判断が求められる。

 世界経済などへの影響が大きいだけに、海域周辺での軍事衝突は何としても避けねばならない。きのう国連安全保障理事会は非公開で議論した。イランを非難する米国の主張では結束できず、安保理としての声明は出せなかった。沈静化に向けて国連がどのような策を打てるかは不透明と言わざるを得ない。

 日本の仲介外交を発揮するときではないか。今回の首相のイラン訪問はそれ自体、意味があり評価できるが、米国との橋渡しでは成果に乏しい。ハメネイ師から、核兵器は造らないと引き出したものの、対米不信は拭えなかった。

 それでも「中東地域の平和へできる限りの役割を果たす」と首相は述べた。粘り強く仲介できるか。その真価が問われる。

(2019年6月15日朝刊掲載)

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