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社説・コラム

[ひと まち] 被爆証言 ボクを変えた

 広島市のNPO法人でインターンシップをしているオーストラリア国立大4年のリアム・アントニー・ウォルシュさん(23)が被爆証言を英訳し、ブログで外国人向けに発信している。被爆者から直接話を聞き、原爆投下は正しかったと思っていた自身の考えが変わったのがきっかけだった。

 ウォルシュさんは4月から、平和活動に取り組むNPO法人「ANT―Hiroshima」(中区)でインターンシップを始めた。渡部朋子理事長(65)の知人が聞き取った岡田恵美子さん(82)=東区=の被爆証言記録を読み、直接話を聞く機会も得た。

 岡田さんは8歳の時に爆心地から約2・8キロの尾長町(現東区)の自宅で被爆し姉を失った。家族を突然引き裂かれ、遺骨すら見つかっていない。幼い少女がズボンにしがみつき助けを求めてきたのに立ち去るしかなかったつらい記憶。被爆地の惨劇を知るにつれ、「軍事的な側面から原爆投下は正しかった」と思っていた認識は変わり、「被爆者の証言を聞かなければ原爆の悲惨さは理解できない」と英訳を思い立った。

 平和記念公園での外国人観光客の通訳といった普段の活動の合間に、原稿用紙約120枚分の記録を英訳し、5月にNPO法人のブログで公開した。その作業中に事務所で出会った別の被爆者の証言は自ら聞き取り、追加で載せた。ブログを見た母国の教師の友人から「平和学習の教材として使う」などのメッセージも寄せられた。

 オーストラリア南部アデレード出身のウォルシュさんは小学生の時、アフガニスタンなどの難民がクラスにいたこともあり、平和への関心を強めた。日本文化への興味から高校時代は岡山県内の高校に留学。大学では、外交官を目指し国際安全保障学を専攻する。

 インターンシップは1日まで。帰国後は母国の外務省でインターンシップを予定する。「小さな一歩かもしれないが、核兵器廃絶につながると信じている。被爆者の声を胸に、将来は外交官として国際平和に貢献したい」(山下美波)

(2019年6月1日朝刊掲載)

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