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社説・コラム

[NIE これ読んで 担当記者から] 被爆証言 ボクを変えた

■報道部・山下美波

「あの日」 どう語り継ぐ

  広島市のNPO法人で4月からインターンシップをしているオーストラリア国立大4年のリアム・アントニー・ウォルシュさん(23)が被爆証言を英訳し、同法人のブログで外国人向けに発信している。被爆者から直接証言を聞き、広島への原爆投下は正しかったと思っていた自身の考えが変わったのがきっかけだった。将来は母国で外交官になり、被爆者の声を胸に国際平和に貢献するのが夢だ。(6月1日付朝刊)


 みなさんは被爆証言を聞いたことがありますか。オーストラリア南部アデレード出身のウォルシュさんは、小学校の授業で広島への原爆投下について学びましたが「原爆投下は軍事的に正しかった」と教えられ、そう信じてきたそうです。

 しかし、インターンシップで訪れた広島市で、初めて被爆者の岡田恵美子さん(82)の証言を聞き、考えは一変します。岡田さんは8歳の時、爆心地から約2・8キロの自宅で被爆。姉を失い、遺骨は今も見つかっていません。

 ウォルシュさんは岡田さんの話から、罪のない多くの市民が犠牲になり、残された家族もつらい過去を抱えながら生きている現実を知りました。「こんなに優しい岡田さんがなぜあんな目に遭わなければならなかったのか」。人柄にも接し、こみ上げた思いが英訳するきっかけになったそうです。

 一方で、ウォルシュさんは「証言を聞かなければ原爆の悲惨さや非人道性は理解できない」とも話します。私も大学3年生の時、17歳で被爆した祖父の証言を聞いて心を動かされ、被爆者の思いを伝え残したいと今、記者の仕事をしています。

 被爆者健康手帳を持つ被爆者の平均年齢は2018年3月末時点で82・06歳。「あの日」を語れる被爆者は年々、少なくなっています。今後、証言を聞く機会が失われたとき、被爆の実態はどこまで人々に伝わるでしょうか。被爆者の声を直接聞くことができるうちに証言の継承について考え、実践していくことが私たち一人一人の責務です。

(2019年6月16日朝刊掲載)

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