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[インサイド] 見返り期待 容認も 山口 地上イージス計画

診療所や地域振興策 反対派「地域分断」と批判

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の山口県への配備計画を巡り、地元で反発の声が上がる一方、受け入れ容認に向けた動きが出始めた。陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)の適地調査の結果を受け、萩商工会議所や隣接の阿武町の一部町議は賛成を表明した。国も演習場周辺の住民だけを集め非公開の説明会を開催。参加者からは迷惑施設を受け入る「見返り」として診療所の誘致や地域振興策を求める意見が相次いだ。(和多正憲)

 「適地であることが確認され、安心安全が担保されれば容認する」。国が地元へ調査結果を報告した5月28日、萩商議所の藤井敏会頭は「容認表明」のコメントを文書で発表した。「萩市、阿武町並びに県が適切な判断を下すことを期待する」と地元自治体への呼び掛けも盛り込んだ。

地元経済界先行

 商議所は既に3月の総会で演習場が適地との調査結果を国が出せば容認する方針を決めていた。藤道健二市長が賛否を示さない中、地元経済界が先行して意思表示した形となった。

 軍事施設の誘致を巡る同様の経済界の動きは、さかのぼること14年前、米軍岩国基地への空母艦載機移転で揺れる岩国市の状況をなぞる。岩国商工会議所は2005年、民間空港再開などの地域振興策を条件に「誘致」を決議。自民党衆院議員から転身3期目の福田良彦市長が17年6月に艦載機受け入れを表明するまで「容認世論」の旗振り役となっていた。

 阿武町でも配備計画を厳しく批判する花田憲彦町長と歩調を合わせてきた町議会で変化の兆しがみられる。同議会は昨年9月に反対の請願書を全会一致で採択。だが、7日の町議会全員協議会では自民党籍の議員が「(国の説明に)理解し納得した。賛成を宣言する」と突然表明。別の議員も「防衛上必要なら仕方ない」と述べ、全議員8人のうち2人が立場を転じた。

国が地区説明会

 国も地元で活発に動きだした。中国四国防衛局は17日まで開催した住民説明会に先立つ10日、演習場近くの住民だけを対象に非公開の「地区説明会」を開催。国の現地事務所の職員が市の了解を得ず、市の非常勤職員である自治会の行政推進員を通じ住民を集めた。

 参加者によると、住民からはイージス受け入れ後、地域にコンビニや診療所の誘致のほか、コミュニティーバス運行など岩国基地への艦載機受け入れに伴う地域振興策のような「見返り」を国へ求める意見が出たという。

 反対派の住民からは「地域分断」や「懐柔策」と批判の声が上がる。「住民の会」の森上雅昭代表は「市職員が立ち会わず、報道への公開もない密室説明会だ」と批判し防衛局に抗議文を出した。一方の国は非公開の会合は住民側からの要請とした上で今後も各地区で続けるとしている。

(2019年6月18日朝刊掲載)

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