×

社説・コラム

天風録 『板門店の外交ショー』

 1年の折り返しとは6月30日でも7月1日でもなく、きょう2日の正午である。なんて無粋な日数計算はさておき、時の移ろいの早いこと。とりわけ今年は改元という歴史的な出来事があったためか、あっという間に半年過ぎた▲さて、この2人はどんな時間感覚をお持ちなのだろう。朝鮮戦争の休戦協定から66年の歳月が過ぎた今になって、一方が「会いたい」とつぶやき、そのすぐ翌日、電撃会談にこぎ着けた。米国と北朝鮮の両首脳である▲軍の最高司令官同士であり、しかも会談場所は朝鮮半島を分断する軍事境界線上の板門店だ。役者と舞台は歴史的な和解シーンにふさわしい。それでも、目立ちたがり屋の政治家による外交ショーだ、などと冷めた批評ばかりが集まる▲それもそのはず。合意したのは、行き詰まった非核化協議をやり直すこと。何のことはない。2人が最初に握手して1年余り。ゴールはおろか折り返し点さえ、はるか先にかすんだまま▲被爆地からすれば、無為な時間稼ぎをされたよう。そもそも核兵器を持つ国に、非核化を語る資格と意欲はあるのだろうか。そして、拉致された人を家族の元に戻すには時間がない。焦りばかり募ってくる。

(2019年7月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ