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社説・コラム

社説 米朝首脳会談 非核化で成果を目指せ

 歴史的な足跡は残したにせよ、外交的には足踏み状態が続いているようにしか見えない。

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による3度目の首脳会談である。朝鮮半島の南北軍事境界線上にある板門店で開かれ、トランプ氏は現職の大統領として初めて北朝鮮側の地を踏んだ。

 南北分断を象徴する場所での両首脳の握手は、緊張緩和ムードを演出するのに十分だったろう。一方で、1時間弱の会談で合意したのは、行き詰まっていた非核化交渉の実務協議の再開ぐらいだった。

 今回は電撃的な対面であり、交渉を積み上げた上での会談ではなかった。成果を求めるのは無理があるとの見方はある。

 とはいえ、このまま尻すぼみになれば「政治ショー」とのそしりは免れまい。近く再開する実務協議で非核化を具体的に進展させてこそ、意義ある会談だったと初めて言えよう。

 このタイミングで会談が開かれたのは、両首脳それぞれの思惑があったに違いない。

 トランプ氏は来年秋の大統領選での再選に向け、目に見える成果を求めている。昨年の史上初の首脳会談で自ら扉を開いた北朝鮮問題はその一つだろう。

 今回の開催が、野党民主党の予備選が始まったタイミングだったのも偶然ではあるまい。核問題を巡って対立するイランに、対話に応じれば友好的に話し合えるというサインを送りたかったのかもしれない。  金氏も北朝鮮内での求心力を高めたい狙いがあったようだ。

 会談を受けて、ポンペオ米国務長官は、今月中旬ごろに実務協議が再開するとの見通しを示した。完全な核廃棄には、緻密な協議と合意が不可欠だ。相手国との信頼関係もしっかり築く必要がある。しかし、非核化の定義や手続きを巡り、両国の認識の隔たりは大きく、今後も予断を許さない。

 トランプ氏は会談後、北朝鮮への制裁を「維持する」と述べる一方、今後の交渉の進展次第では制裁を見直す可能性にも触れた。北朝鮮が求める非核化と制裁解除の同時並行という方式に譲歩する懸念が見えてきた。日本も支持してきた非核化の実現後に制裁解除するという、これまでの原則が崩れかねない。

 北朝鮮は、過去に核・ミサイルの開発凍結に伴って食糧支援や経済制裁の解除を受けながら、水面下で開発を続けてきた歴史がある。安易な譲歩は、非核化交渉を無にする恐れがあることを忘れてはならない。

 北朝鮮が5月に発射した短距離弾道ミサイルについて、トランプ氏が会談後に「問題視しない」と改めて強調したのも見過ごせない。米国にとっては本土に届く長距離ミサイルさえなければいいと言いたいのだろう。

 しかし、それでは日本などにとっての脅威は消えない。拉致問題も依然として残り、東アジアの緊張は続く。米朝の2国間交渉の限界ではないか。

 トランプ氏と金氏の個人的な関係で局面が二転三転するようでは、非核化への道筋もおぼつかない。韓国はいうまでもなく、中国、ロシアといった周辺国と日本が連携して後押しする必要がある。いまだ休戦状態にある朝鮮戦争の終結をはじめとする半島の平和体制の構築にもつなげなければならない。

(2019年7月2日朝刊掲載)

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