×

社説・コラム

社説 ’19参院選 日米安保 地方の負担に目向けよ

 「日米安全保障条約は不公平だ」。そんなトランプ米大統領の発言で、日米安保の在り方がにわかにクローズアップされてきた。各党の参院選の公約でも争点の一つとなっている。

 「自国第一」を掲げ、国際協調に背を向けるトランプ氏である。日米安保は米国の負担が大きいと言いたいのだろう。緊密な関係をアピールしてきた安倍晋三首相にとっては、冷水を浴びせられた格好だ。

 イラン沖での日本船籍のタンカー攻撃を受け、米軍はきのう民間船舶の安全確保のため、各国による有志連合を結成する考えを示した。日本は安易に「イエス」と言うべきではない。

 トランプ氏は大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)後の会見で、安保条約を「不公平」と述べた。実際はどうだろう。不公平というなら日本側にも言い分はある。日米地位協定は米軍基地への立ち入りが制限されるなど、ドイツやイタリアに比べ主権が守られているとは言い難いからだ。

 思いやり予算と呼ばれる日本の在日米軍駐留経費負担は毎年2千億円近くに上る。加えて騒音対策費なども支出している。

 トランプ氏の発言は、貿易交渉を有利に運んだり、今後の思いやり予算の交渉で大幅増額を狙ったりするためかもしれない。日本政府は、毅然(きぜん)とした対応をしなければなるまい。

 参院選では日米安保の枠組みについて、連立与党の自民党、公明党に加え、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会は維持を主張し、共産党、社民党は反対している。

 沖縄県名護市辺野古への新たな米軍基地建設については、野党の多くが反対する。県知事選、県民投票、衆院補選などで民意は何度も「ノー」を突き付けてきた。しかし政府は一顧だにせず工事を強行する。安全保障は国の専権事項だから「言うことを聞け」と言わんばかりだ。地元の理解を得る努力が十分だとは到底言えまい。

 安保の名の下で、地方が一方的に負担を強いられているのは沖縄に限らない。米国製の地上配備型迎撃ミサイル「イージス・アショア」の萩市や秋田市への配備計画もその一つだろう。防衛省のずさんな調査もあり、地元の不信感は高まっている。

 1960年に発効した地位協定には、地方から厳しい目が向けられている。全国知事会は昨夏、抜本的な見直しを求める提言書を日米両政府に初めて提出した。日本政府は、米国との交渉に本腰を入れるべきだ。

 地位協定を巡る、広島選挙区の候補者への本紙アンケートでは、与党内の温度差の違いが現れた。2人の自民党候補は「米軍基地に起因する問題解決には改定も視野に見直しを検討すべきだ」「見直しを要するような不利な条件であるとは一概に言えない」と意見が分かれた。

 6年半の安倍政権下で安全保障関連法が成立、施行された。歴代の自民党政権が憲法上許されないとした集団的自衛権の行使の道を開いた。自衛隊と米軍の行動の一体化が進むことを懸念する声が高まっている。岩国基地(岩国市)を抱え、米軍機の低空飛行に悩まされる中国地方にとっても看過できない。

 日米安保は変質しつつある。私たちは参院選を、現状を見つめ直す機会にしたい。

(2019年7月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ