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社説・コラム

『潮流』 被爆地の握りこぶし

■ヒロシマ平和メディアセンター長 吉原圭介

 参院選が公示され、各党党首たちの演説風景をテレビなどで見る機会が多くなった。気になるのは、語気を強めるたびに顔近くで見せる握りこぶしだ。どこかぎこちなく見える。写真やテレビ映りを気にしているのかもしれない。裏方の広告代理店からポーズを要請されているのかと勘繰ってみたくもなる。

 さて参院選が終わると、2週間余りで「あの日」がやってくる。被爆74年。平和記念式典で広島市長が読み上げる平和宣言に、核兵器禁止条約への言及を求める声が最近目立つ。政府に行動を促してほしいという切なる思いの表れだ。

 核兵器禁止条約は2年前の7月7日、米ニューヨークの国連本部で122カ国・地域の賛同を得て採択された。発効には50カ国の批准が必要だが、署名後、議会承認などの国内プロセスを経なければならない。そこに至ったのはまだ23カ国にすぎない。

 その先頭に立つべき、被爆国日本はこの条約に背を向け続けている。批准はおろか署名すらしていない。日本同様、その安全保障を「核の傘」に頼る国も静観の構えだ。外交の名の下に、核兵器保有国に遠慮しているかのように見える。

 このたび広島市の平和発信を担う広島平和文化センター理事長に、2代続けて外務省出身者が就くことになった。外形で判断するべきでないが、外交をおもんぱかり、日本政府にもの申すべき声がトーンダウンすることがあってはならない。同様に平和宣言も「調整型」に走って訴えをぼやかすことは許されない。

 被爆者健康手帳を持つ人は15万人を切った。平均年齢は82歳を超えた。74年もの間、訴え続けた被爆者の悲願実現のために被爆国政府は、その方針を大きく転換すべきであろう。そして被爆地広島はそれを強く求めるべきだ。被爆地のこぶしは、強く握られている。

(2019年7月11日朝刊掲載)

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