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連載・特集

細る活動 高まる存続危機 2019 全国被爆者団体アンケート

 各都道府県と中国地方各地の計109の被爆者団体を対象に中国新聞社が実施したアンケートからは、相次ぐ解散や活動停止に直面する組織の苦境が浮き彫りになった。高齢化による活動力の低下は深刻で、被爆2世を中心とした戦後世代への期待は高まる。99団体が回答を寄せたアンケート結果を詳報し、戦後75年の節目を来年に控えた被爆者運動の現状を見る。(石川昌義)

主な質問項目と回答

◆組織の今後について       団体数   割合

 2世や被爆者遺族たちを     46    46.5%
会に加えて存続させる
 会員の被爆者がいなくな     20    20.2%
れば解散・消滅させる
 別の組織に活動を引き継     11    11.1%

 その他             19    19.2%
 無回答              3    3.0%
  計              99

◆組織の解散や統合の予定の有無

 ある              10    10.1%
 ない              88    88.9%
 無回答              1     1.0%
  計              99

◆被爆2世の会員の有無

 いる              66     66.7%
 いない             33     33.3%
 無回答              0      0.0%

◆会の内外に被爆2世の組織はあるか

 ある              48     48.5%
 ない              48     48.5%
 2世組織をつくる予定がある    2      2.0%
 無回答              1      1.0%

◆2世組織がない理由
(「ない」と回答した
48団体に質問)

つくりたいが担い手がいない    26     54.2%
必要だと思っていない       10     20.8%
無回答              12     25.0%
 計               48

◆広島市長の平和宣言で、日本
政府が核兵器禁止条約に参加す
るよう求めるべきだと思うか

 思う               88     88.9%
 思わない              8      8.1%
 無回答               3      3.0%
  計               99

◆2020年の被爆75年に
向けて計画していることがあるか

 ある               38     38.4%
 ない               59     59.6%
 無回答               2      2.0%
  計               99

福山市原爆被害者友の会の「ピース・メイト」 戦後世代 裾野拡大図る

 「被爆者の平均年齢をご存じですか」。府中市役所で今月11日にあった市民団体主催の平和学習会。講師を務めた福山市のパート従業員船井真奈美さん(55)は切り出した。

 船井さんは同市原爆被害者友の会の会員である「ピース・メイト(平和の仲間)」。ピース・メイトには誰でもなることができ、被爆者や被爆2世の会員と一緒に活動する。

平和考えるために

 広島市で生まれ、約20年前に福山市へ転居した船井さん。身内に被爆者はいない。わが子と一緒に平和を考えようと、長女木奈美(こなみ)さん(18)と一緒にピース・メイトになった。広島市の被爆体験伝承者でもある。

 今春、神奈川県の大学に進学した木奈美さんは夏休みに帰省し、8月6日に友の会が開く慰霊祭で司会を務める。「被爆者の皆さんの率直な気持ちに接することができる。広島市生まれで知っているつもりでも、実は知らないことが多いと気付いた」と船井さんは語る。

 友の会が発足したのは2015年4月。前身の被爆者団体が同年3月、担い手不足のため解散したのを受け、活動の継続を望む被爆者と被爆2世が中心となって結成した。細る活動に外部の若い力を導入するため設けたのがピース・メイトだった。

 「被爆者とその家族に頼った運動は先細りする」。友の会発足時から会長を務める被爆2世の藤井悟さん(72)の持論だ。「わしらの代でおしまい」「誰も後に続かない」…。前身の被爆者団体が解散論議に揺れていた頃、幾度となく聞いた諦めの言葉に、藤井さんはその思いを強くした。

周辺組織の受け皿

 現在、友の会の会員約70人のうち被爆者、ピース・メイトはそれぞれ約25人。残りは被爆2世だ。会はピース・メイトの中高生や大学生と被爆者の交流の場をつくるなど、次世代への継承に力を入れる。17年には福山市神辺町原爆被害者の会が合流し、立ち行かなくなった周辺組織の受け皿にもなっている。

 今月15日、同市中心部の公園にある原爆死没者慰霊碑の清掃に会員の約40人が参加した。被爆者と若い世代が一緒に汗を流す姿を見て、藤井さんは決意を新たにした。「新しいエネルギーをもらった私たちが、末永く被爆者の思いを引き継ぐ」

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アンケートから

今後の組織の在り方

「存続」46%「解散・消滅」20% 2世 担い手の期待

 アンケートでは被爆者の高齢化が一段と進む中、今後の組織の在り方について尋ねた。回答を寄せた99団体のうち、「2世や遺族を団体に加えて存続させる」が最多の46団体(46.5%)。「会員の被爆者がいなくなれば解散・消滅させる」が20団体(20.2%)、「別の組織に活動を引き継ぐ」が11団体(11.1%)で続いた。「その他」19団体(19.2%)、無回答3団体(3.0%)。

 同じ質問をした2015、17年のアンケート結果と比較すると、「解散・消滅」を選んだ団体は15年の43団体から半減していた。この間に組織の解散・消滅が急速に進んだとみられる。

 今後の活動の担い手として被爆2世への期待が高まる。団体の内外に2世組織が「ある」と答えたのは48団体(48.5%)。いずれも44団体だった15、17年の調査より4団体増えた。一方、「ない」とした48団体(48.5%)のうち、過半数の26団体が「つくりたいが担い手がいない」と回答。核兵器廃絶を広く訴える被爆者運動を継続するための人材確保の難しさを示した。

来年の被爆75年への計画

記念誌・HP…反核の歩み発信 NPT会議派遣も

 来年に迫った被爆75年に向けた取り組みの有無も尋ねた。記念事業の実施や来春、米ニューヨークである核拡散防止条約(NPT)再検討会議への会員派遣を検討している団体があり、節目の年に核兵器廃絶を求める声を高める考えだ。

 団体の結成60年と重なる静岡県や富山県の団体は記念誌の発行を予定する。愛媛県の団体は、活動の歩みをまとめたDVDの制作に乗り出す。

 被爆体験を伝える東日本唯一の民間施設「北海道ノーモア・ヒバクシャ会館」を札幌市で運営する北海道の団体は、被爆資料などの展示物や北海道での被爆者運動の歴史を紹介するホームページ(HP)の公開を予定している。絵本を通じて若者や子どもたちに訴え掛ける計画もある。

 NPT再検討会議への会員派遣を計画しているのは山口県や下松市、東京都、宮城、香川両県の団体。派遣する団体は今後、増えると見込まれる。

 また、被爆地の長崎県の団体は被爆75年を前に、買い物や通院の手伝いなど被爆者の生活支援や慰霊行事の担い手となるサポーターの募集を開始。10月に活動を始める。

(2019年7月24日朝刊掲載)

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