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社説・コラム

中国経済クラブ 講演から 核なき世界と日本、ヒロシマ 共同通信社編集委員 太田昌克氏

米に過剰同調やめ バランス取るべき

 中国経済クラブ(山本治朗理事長)は24日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開き、共同通信社編集委員の太田昌克氏(51)が核兵器を巡る世界情勢について話した。恒久的な平和の実現のため、日本政府の積極的な関与の必要性を強調した。要旨は次の通り。(江川裕介)

 トランプ米政権は、あちこちで「けんか」している。イランの核合意問題もその一つで昨年5月、米国は核合意から離脱した。イランも履行義務を一部停止。さらにウラン濃縮度を上げると言っている。ペルシャ湾岸の軍事的緊張は非常に高まっている。

 日本はイランに対し、緊張を高めないよう絶えず働き掛けねばならない。トランプ大統領にも発作的な軍事衝突を避けるよう言わねばならない。安倍晋三首相のトランプ氏に対する過剰な同調が気掛かりだ。

 米国が日本に差し向ける「核の傘」は1975年が転換点だった。ワシントンを訪れた当時の三木武夫首相がフォード大統領と「日米共同新聞発表」を公表した。首脳レベルの文書で初めて米国の「傘」が日本防衛に重要だと認めた。その後、日本の防衛大綱に核の傘が必ず明記されるようになった。

 核拡散防止条約(NPT)が発効したのは70年。5カ国に保有を認め、残りの国は平和利用のみとした。当時の関係者の話では、日本が傘に入ることとNPT加盟は一種のバーターだった。日本が核武装を封印しNPT加盟を選んだ対価として、米国が傘を日本に与えたという。

 トランプ政権は2017年に発足した。安倍氏とトランプ氏があらためて核の傘を確認したのと同時期に、国連で核兵器禁止条約の議論が始まった。日本は同条約と核の傘のどちらを選ぶのか。官邸サイドは圧倒的に核の傘を主張していた。

 トランプ政権が18年2月に公表した新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」には爆発力を抑えた低出力の小型核の開発を明記。サイバー攻撃を受けても核報復の対象にする。柔軟な核使用のオプションを持つ指針に、日本政府も追従している。

 今、日韓関係は険悪だ。ただ朝鮮半島に限って言えば、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、非核化を巡る外交で非常に大きな役割を果たしたことは事実だ。一方、日本は核抑止を強める方向に傾斜している。韓国と日本の差を真剣に考えねばならない。

 米国は1994年、北朝鮮への軍事攻撃を検討し、第2次朝鮮戦争は現実味を帯びていた。トランプ政権でも同様の議論をしていたという。

 為政者は、歴史が大きく変わる局面を見過ごしてはいけない。日本政府は米国に過剰に同調するのではなく、バランスを取った外交が必要だ。「核のない世界」をどうつくるのか。日本が訴え続けてきた非核や反核、そしてヒロシマ、ナガサキのメッセージをそしゃくし、わが物にすることが今、安倍政権に求められている。

おおた・まさかつ
 政策研究大学院大博士課程修了。1992年、共同通信社に入社し、広島支局やワシントン支局などを経て2009年から現職。富山県砺波市出身。

(2019年7月25日朝刊掲載)

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