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原爆資料館 前田館長 今月で退任 思いに寄り添い代弁 

 原爆資料館(広島市中区)の前田耕一郎館長(64)が、任期切れとなる3月末で退任する。2006年の着任から7年間を振り返り、資料館の今後の課題などを聞いた。(田中美千子)

 前田館長は鹿児島市出身。被爆者でない館長の就任は27年ぶりだった。実体験を織り交ぜ、原爆の悲惨さを訴えてきた歴代館長と自身を比べ「当初は私でいいのかと、かなり戸惑った」と明かす。

 支えになったのは、就任前に同じ平和記念公園内にある国立広島原爆死没者追悼平和祈念館で初代館長を務めた経験だった。3年8カ月、被爆体験記の収集や普及に当たり、被爆者や遺族の痛みを胸に刻んだ。「原爆を体験した人たちの思いに寄り添い、代弁していこう」と決めた。

 米国のナンシー・ペロシ下院議長(当時)やイスラエルのバラク副首相兼国防相(同)たち、核軍縮に影響力を持つ要人も数多く案内した。「原爆が使われたらどんな悲劇が起きるか。ありのままに事実を伝えるのがヒロシマの使命。誰もが『原爆は悲惨』と感じてくれたと信じたい」

 いま、胸にあるのは被爆者の高齢化にあらがえない現状への危機感だ。「資料館の役割はおのずと重みを増す。戦争を知らない世代にも原爆の脅威がしっかり伝わる仕掛けが必要だ」と話す。

 13年度からの資料館改修工事に向け、新たな展示計画の取りまとめにも力を尽くした。遺品に遺影を添えるなど、配置に工夫を凝らした。「一点一点に込められた被爆者や家族の思いを想像してほしい」と呼び掛ける。

 退任後は、青少年の健全育成ボランティア活動などに関わりたいという。「求められれば平和活動にも貢献したい」。ヒロシマの心を持ち続ける。

まえだ・こういちろう
 1948年、鹿児島市生まれ。広島大大学院経済学研究科修了後、74年に広島市職員。広島国体実行委員会事務局事業課長や原爆資料館副館長などを歴任した。2006年から現職。安佐北区在住。

(2013年3月27日朝刊掲載)

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