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連載・特集

ヒロシマの発信はいま 被爆74年 <6> 平和首長会議

核の廃絶 市民社会から 世界7772都市が前進訴え

 スペインでは、広島、長崎両市が提唱する「平和首長会議」に加わった都市が391に上る。7月中旬、広島市中区の広島国際会議場。スペイン・バルセロナ県庁で、その都市の支援に取り組むエウラリア・カリーヨさん(50)が実感を込めて語った。「平和構築の鍵は、市民の平和や人権に責任を持つ自治体が握る」。会議の事務局を担う広島平和文化センター(中区)の職員たちがうなずいた。

 平和首長会議は現在、松井一実市長が会長を務め、世界163カ国・地域の7772の都市が加盟する。活動の方向性を共有するため、事務局は2014年度から年1~7人のインターンを受け入れる。カリーヨさんもその一人だ。

 各都市は核兵器禁止条約への賛同決議や、国際会議への参加など活発に動くという。ことし3月には、中東のシリア紛争をテーマにシンポジウムを開催。欧州で難民排斥を肯定する不穏な空気が広がる中、国内に暮らす難民や有識者を招いて議論し、被害者への連帯をうたう宣言を採択した。

 スペインにも、スペイン内戦(1936~39年)のゲルニカ空爆など各地に戦争の記憶が残る。カリーヨさんは「世界の平和を目指す以上、まずは目の前の紛争や、そこに暮らす市民の平和からだ」と、首長会議への加盟をきっかけに活動が広がったと意義を説く。

多様性増す活動

 実際、イラン・イラク戦争での毒ガス被害の記憶の継承(イラン)、市民から銃器を引き取り処分するプロジェクト(メキシコ)など、加盟都市の取り組みは多様性を増す。平和首長会議事務局は「平和を阻む課題への各地の取り組みを尊重した上で、全体で核兵器廃絶という大きなテーマに取り組みたい」とする。

 平和首長会議は、改称前の2003年10月、2020ビジョンで「20年までの核兵器廃絶を目指す」と明記した。今春の米ニューヨークでの核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第3回準備委員会では、松井市長と田上富久・長崎市長が議場で演説。核兵器保有国の英国などの代表とも面会し、核軍縮の前進を訴えた。各国に対決から協調への転換を求める共同アピールも出した。

 しかし、現実は厳しい。議場では、核兵器禁止条約を巡る対立、核超大国の米ロの非難の応酬など「市民不在」の論争が続いた。傍聴した広島市立大の福井康人准教授(軍縮国際法)は、保有国が従来の段階的な軍縮にすら消極的な現状を踏まえて「市民社会の側から国際政治を動かすのは容易ではない」とみる。

政府動かす役割

 しかも「唯一の被爆国」を掲げる日本は禁止条約に背を向け続ける。福井氏は、その立場を堅持する外務省の官僚出身という自身の経歴に触れて言う。「私もまた、資料館の遺品に接して『被爆の実相』を感じた。広島には心を動かすものがある。丹念に発掘し、伝えることが重要だろう」。被爆地に根付いた地道な発信が重要とした。

 松井市長は準備委で、条約推進国ニュージーランドのデル・ヒギー軍縮大使に日本政府への働き掛けを求めた。「日本政府を動かすのは日本の市民社会の役割ですよ」と、ヒギー大使は返答した。世界7772都市の賛同を集めた「平和首長会議」の旗印。そのヒロシマの足元の課題を突き付けていた。(明知隼二)

平和首長会議
 核兵器廃絶を目指す都市の連帯組織。1982年に広島、長崎両市長の呼び掛けで発足した「世界平和連帯都市市長会議」が前身で、2001年に平和市長会議、13年に平和首長会議に改称。17年に策定した行動計画で「安全で活力のある都市」の実現を活動のもう一つの柱として加えた。広島市長が会長、長崎市を含む世界14市の市長が副会長を務める。19年7月1日時点で世界163カ国・地域の7772都市(うち国内1732市区町村)が加盟している。

(2019年7月30日朝刊掲載)

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