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社説・コラム

社説 米の核使用新指針 「絶対悪」なぜ分からぬ

 想像するだに恐ろしい「核作戦」の指針を米軍が取りまとめていたことが分かった。戦闘中に小型核の使用を想定した内容である。言語道断というしかない。

 トランプ米政権が導入を目指す「より使いやすい核」の議論を具体的に進めている証左といえよう。核なき世界を願い、核兵器禁止条約を成立させた国際世論を踏みにじる蛮行である。

 核兵器を使う立場にある米統合参謀本部による内部文書「核作戦」で明らかになった。

 文書は「核兵器やその脅しが地上作戦に重大な影響を与える」「核使用が紛争で勝敗を左右する状況をつくり出す」などと核攻撃の効用を力説している。核を戦闘の道具としか見ていないのだろうか。極めて危険で現実離れした発想である。

 さらに見逃せないのは、核兵器を通常兵器の延長線上に位置付ける重要性を強調し、部隊は核兵器の使用後、被曝(ひばく)の恐れがある環境下でも作戦を遂行する能力を保持する必要性さえ訴えている。

 核兵器の使用がどれほど悲惨な状況を招くか、想像できていないに違いない。使用のハードルが下がり、74年前の長崎への原爆投下以降、堅持されていた「核のタブー」を揺るがす事態を招きかねない。

 トランプ政権は昨年2月に示した新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」で、「使える核兵器」の役割拡大を進める方針を打ち出した。

 爆発力を抑えた小型核を開発し、潜水艦に搭載することも盛り込んだ。今年初めに核爆発を伴わない臨界前核実験を行ったのも、小型核の開発、製造を進めているからではないか。

 核を巡って世界は不安定さを増している。冷戦終結を後押し、核軍縮への潮流をつくった米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約が来月にも失効する。米国が一方的に条約を破棄し、対立は強まるばかりだ。

 米ロ間にはもう一つ、より長距離のミサイルなどを対象とする新戦略兵器削減条約(新START)が残っている。2年後に期限を迎えるものの、先行きは見通せない。

 ロシアも小型核を開発しているとされる。米軍が抑止力を理由に「使える核兵器」に固執するならば、際限のない軍拡競争に拍車を掛けるのは目に見えている。

 核保有国に核軍縮義務を課す核拡散防止条約(NPT)がますます空洞化する懸念が強まっている。

 唯一の戦争被爆国である日本政府の責任は大きい。オバマ前米大統領が検討していた核兵器の「先制不使用」政策に反対する意向を示した。米国の「核の傘」への依存を強めていると言えよう。

 危険な対立が続いた冷戦時代に後戻りするかのような流れを止めることが求められているのではないか。国際的にはその動きもある。

 各国の批准が進む核兵器禁止条約である。どんな核兵器も使うことはもちろん持つことも「絶対悪」と見なす。核兵器のない世界を実現する一歩となる。これはヒロシマ、ナガサキの願いでもある。

 「絶対悪」の存在だと米国に理解させることこそ、日本に求められている。

(2019年7月30日朝刊掲載)

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