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平和の絆 広響ポーランド公演 出発を前に <上> 作曲家・指揮者 クシシュトフ・ペンデレツキさん

 日本とポーランドの国交樹立100周年を記念した広島交響楽団のポーランド公演が近づいてきた。首都ワルシャワで17、18の両日、現地のオーケストラと合同コンサートに臨む。「Music for Peace(音楽で平和を)」を掲げ、戦争の惨禍を経験した広島とワルシャワを音楽で結ぶ。ヒロシマに関わるポーランドの人たちに公演への期待を聞いた。(西村文)

音楽は言葉 人と人をつなぐ力

 「私は50年以上にわたって広島の犠牲者に心を寄せ、世界平和を考えて音楽活動をしてきた」

 ポーランドを代表する作曲家・指揮者のクシシュトフ・ペンデレツキさん(85)は平和記念公園(広島市中区)の原爆慰霊碑を前に、静かな口調でヒロシマへの思いを語った。6月、広響の演奏会を指揮するため来訪。第2次世界大戦開戦70年のために作曲した「平和のための前奏曲」(2009年)などを披露した。

 映画「シンドラーのリスト」の舞台になった古都クラクフから東へ約100キロのデンビツアの出身。幼少期、ナチス占領下で迫害されるユダヤ人たちを目の当たりにしたという。クラクフ音楽院で作曲を学び、1950年代後半から前衛的な作風で頭角を現した。

 天を切り裂き、大地を揺るがすような音色が、底知れぬ恐怖を呼び覚ます―。合同コンサートの演目の一つ「広島の犠牲者に捧(ささ)げる哀歌」(60年)で知られる。弦楽器の新たな表現を追求し、ユネスコ国際作曲コンクールのユネスコ賞を受賞。レコードの第1号は、当時の故浜井信三広島市長に贈られた。

 「私は作曲とタイトルに、さまざまな歴史的な要素を組み込む。私の言葉は音楽。音楽は抽象的なものだが、全てを語ることができる」

 70年代から指揮者としても活躍する。合同コンサートで広響が共演するシンフォニア・バルソビアの音楽監督を97年から務め、現在は芸術監督を担う。「ポーランドを代表するベストな管弦楽団の一つ。東京で公演を重ね、日本と深い関係を築いてきた」と語る。

 合同コンサートの演目にはペンデレツキさんをはじめ、両国を代表する新旧作曲家の作品が組み込まれている。「ワルシャワ市民は、自分たちと同じように戦争の惨禍から復興を遂げた広島に深い共感を寄せている。音楽は人と人とをつなぐ力がある。両国の絆が強まるコンサートになるはずだ」と期待を寄せる。

広響ポーランド公演
 17、18の両日、会場はワルシャワフィルハーモニーホール。広響の楽団員21人と、現地の楽団「シンフォニア・バルソビア」が共演する。ソリストには広響の「平和音楽大使」を務める世界的なピアニストのマルタ・アルゲリッチと、彼女の盟友であるネルソン・フレイレが出演する。広響の海外公演は2005年の韓国以来、14年ぶり。

(2019年8月2日朝刊掲載)

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