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社説・コラム

『この人』 被爆前の家族の日常を写真絵本にした児童文学作家 指田和さん

 ピクニックや海水浴、人形遊び…。爆心地付近で暮らした一家の家族写真をアルバムのように並べた絵本「ヒロシマ 消えたかぞく」を刊行した。「自宅のアルバムと同じようにめくってもらい、原爆を自分のこととして捉えてほしい」と願う。

 写真は、被爆死した鈴木六郎さん=当時(43)=が撮りためていた。笑顔にあふれ、幸せいっぱいの家族6人は全員、原爆の犠牲になった。2016年、原爆資料館の展示で目にし、心が打ちのめされた。写真を保管していた親戚から約2千枚を見せてもらい、一枚一枚と向き合った。

 おてんばだった一家の長女公子ちゃん=当時(9)=は、自分と似ているようで親近感を抱いた。声が聞こえてきそうなほど家族が近い存在になった時、こみ上げたのは怒りだった。「勝手に命を奪う権利は誰にもないはず」

 6日、広島市東区にある鈴木家の墓に参った。「未来へ続く日常が、ひたひたと迫る戦争によって壊された。今の時代はどうだろうと、考えるきっかけになれば」  埼玉県吹上町(現鴻巣市)の農家に生まれた。大学卒業後、農協関係の子ども向け雑誌などの編集を手掛けた。30代で米国に留学した時、米中枢同時テロや日本人留学生の行方不明事件が起き、命の問題を考えるようになった。

 05年、阪神大震災で家族を失った子どもの心を追った「あの日をわすれない はるかのひまわり」でデビューし、命や自然をテーマに取材を続ける。「ヒロシマのピアノ」や「ヒロシマのいのちの水」など、原爆をテーマにした作品も多い。「命あってこそ私たちの生活がある。その素晴らしさを伝え続けたい」

 水生昆虫研究家の夫と鴻巣市で2人暮らし。(増田咲子)

(2019年8月7日朝刊掲載)

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