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[インサイド] 式典時間帯 ことしもデモ 8・6の原爆ドーム周辺に響く訴え

 「原爆の日」の6日、原爆ドーム(広島市中区)周辺ではことしも、平和記念式典が開かれている時間帯に、デモ団体が相次ぎマイクスピーカーを使うなどして活動した。憲法9条改正を目指す安倍晋三首相を批判し、反戦反核を訴える団体や、こうした主張に異を唱える保守系団体など少なくとも6グループで、計約700人が集まった。市は条例の制定も視野に規制を検討している。現場で実態を調べた。(永山啓一、中川雅晴、木下順平)

 式典会場にある原爆慰霊碑(同)の北約350メートル。原爆ドーム北側で午前6時前、「8・6ヒロシマ大行動」実行委員会メンバーがデモの場所取りを始めた。新左翼グループの一つ、中核派による機関紙「前進」の旗も見える。主催者発表で約500人が参加。午前7時すぎから次々とマイクを持ち、スピーカーを通じて核兵器廃絶の訴えや安倍政権への批判を続けた。

黙とう前終了も

 原爆投下時刻の午前8時15分には黙とう。その後、元安川沿いを南へと声を上げてデモ行進した。式典で安倍首相があいさつする8時半ごろには、慰霊碑から北東約200メートルの元安橋東詰めに立ち止まり、拡声器で「憲法の改悪を許さないぞ」「広島、長崎を繰り返すな」と声を張り上げた。

 中島健共同代表は「安倍首相に直接、日本を戦争する国にするなと訴えることに意義がある。私たちの主張に拍手をしてくれる市民もいた」と話した。

 このほか早朝にドーム北側に集まったグループはおおむね、黙とうの時間帯までに拡声器を使った活動を終えた。別の新左翼グループ「解放派」などと書いたゼッケンと水色のヘルメット姿の約30人は大半が高齢の男性で、「首相の式典出席を弾劾する」などと訴えた。

 宗教団体日本山妙法寺の僧侶たち約15人は、うちわ太鼓をたたきながら反核を主張。市民団体「ピースリンク広島・呉・岩国」や「第九条の会ヒロシマ」のメンバーたち約130人は、地面に倒れて原爆の悲劇を再現する「ダイ・イン」で反核を訴えた。

 一方、保守系団体「日本暁乃会(あかつきのかい)」などの約10人も集合。一部はデモ参加者に「核兵器をなくしたいなら、北朝鮮に言え」などと詰め寄り、騒然とする場面もあった。中川公伸会長は「8月6日は静かに黙とうするのが当たり前なのに、県外からたくさん人が来て騒ぎ立てている。市が規制するべきだ」と訴えた。

 また、元安川沿いでは「広島無政府主義研究会」の呼び掛けで集まったという約10人が集会を開いた。黙とうの時間帯にも、拡声器で「安倍(首相)は帰れ」と声を荒らげ続けた。

機動隊員が警戒

 デモ団体の周りでは警察の機動隊員が取り囲んで警戒した。式典中のデモは被爆者の中でも意見が割れる。ドーム北側であった慰霊式に参加した吉村靖子さん(76)=安佐北区=は「式の間だけでも静かにできないのか」と困り顔。原爆で兄と姉を亡くし、毎年式典に参列する岡五郎さん(83)=東区=は「平和憲法を守ってほしいという主張は分からないではない。規制の必要はない」と話した。

(2019年8月8日朝刊掲載)

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