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社説・コラム

社説 韓国の情報協定破棄 地域の安定 崩す判断だ

 元徴用工訴訟などの歴史問題に端を発した日本と韓国の対立が、通商分野を経てとうとう安全保障分野にまで拡大した。憂慮すべき事態である。

 韓国政府が、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決め、きのう日本に通告した。日本による輸出規制を元徴用工問題の報復と捉え、対抗措置として決めたものだ。

 その影響は日韓2国間にとどまらない。日米韓3カ国の連携基盤を揺るがし、北東アジア地域の安全保障に深刻な打撃となりかねない。

 このままでは日米韓を分断したい中国とロシア、北朝鮮を利することにしかならないのではないか。誤った判断というしかなかろう。韓国政府にはいま一度、冷静に現状を分析し、対話という外交の基本に立ち返って、再考するよう求めたい。

 協定は、機密情報を提供し合う際、第三国への漏えい防止のため結んでいる。その秘密保全の対象は軍事技術だけでなく、戦術データや暗号情報など広範囲に及んでいる。緊密な日韓協力の象徴としての意味合いが強かった。

 北朝鮮はこのところ、短距離弾道ミサイルなどの発射を繰り返している。それだけに日米韓での緊密な情報交換と連携が必要なはずだ。

 日米両国とも延長を強く求めていただけに、岩屋毅防衛相が「失望を禁じ得ず極めて遺憾だ」と強く批判したのも当然だろう。

 米国防総省もいち早く「文在寅(ムン・ジェイン)政権の決定に強い懸念を表明する」との声明を発表した。強い表現を使い、名指ししてまで非難するのは極めて異例という。北朝鮮の脅威を過小評価し、融和政策に肩入れする文政権の姿勢への危機感が強いに違いない。

 韓国は協定を破棄した理由について、日本の韓国向けの輸出管理の強化が「両国間の安全保障環境に重大な変化をもたらした」ことを挙げた。

 だが協定を破棄したところで、日本が譲歩し、輸出管理規制が緩和されるわけではあるまい。むしろ日本側の反感を強めるだけではないのか。

 2016年に協定を締結する際には、韓国内にも反対の声が強かった。植民地支配の歴史的な経緯から日本との「軍事協力」には賛成できないとの理由からだ。

 最近の世論調査でも、半数近くが破棄に賛成している。文政権の支持層に協定反対派が多かったのも背景にあったようだ。来年4月の総選挙をにらんだ決断だったのだろう。

 対立の影響は経済だけでなくさまざまな分野に及んでいる。韓国からの訪日旅行者が減り続け、韓国の航空会社の日本路線の運休、減便の動きも相次ぐ。小中学生らの相互派遣や民間交流の中止も目立つ。民間レベルで積み重ねてきた友好の輪がしぼみかねない。

 両国政府は互いに相手側に非があるとの姿勢を変えてない。このままでは事態は悪化するばかりだ。21日の日韓外相会談では、外交当局間で意思疎通を続ける方針を確認している。

 深刻化する関係を修復していく責任は日韓両国にあることをしっかり認識すべきだ。年末にも開催が予定される日中韓首脳会談の場を好機にしたい。

(2019年8月24日朝刊掲載)

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