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社説・コラム

INF条約失効 広島大平和センター・友次准教授に聞く

新たな兵器開発競争も 対話の努力 米露に期待

 中距離核戦力(INF)廃棄条約が今月2日に失効した後、米国は禁じられていたミサイル発射実験に踏み切り、ロシアもミサイル開発の再開を表明して緊張が高まっている。新たな軍拡競争の懸念や、核軍縮を巡る国際情勢について、広島大平和センターの友次晋介准教授(国際関係史)に聞いた。(明知隼二)

  ―米国のミサイル実験をどう受け止めますか。
 INF廃棄条約の発効以来なかった実験で、実施は残念だ。ただ決して突然ではない。トランプ政権は2018年の核政策指針「核体制の見直し」で、小型核の開発に加え、オバマ政権が退役させた巡航ミサイルの再配備に触れていた。実験はその延長上にある。

 軍拡競争が懸念されるが、核兵器が激増した冷戦期とは違い、(性能向上などの)近代化や、極超音速兵器など新たな兵器開発の応酬が予測される。核兵器のリスクの在り方も変わり、軍縮を巡る議論はより複雑になるだろう。

  ―背景には何があるのでしょうか。
 「過激なトランプ政権」に原因を求めがちだが、そうとは言い切れない。INF廃棄条約を巡る相互不信も、欧州への米国のミサイル防衛システム配備を巡る対立も、オバマ前政権下で既に明らかだった。両国の本質的な対立を緩和しないと、事態の改善は難しい。

  ―核軍縮を巡る議論への影響をどう見ますか。
 21年に期限が切れる米ロの新戦略兵器削減条約(新START)は交渉すら始まらず、中国も米ロとの核軍縮の枠組み作りに加わる気配はない。これら核兵器保有国の姿勢に対し、非保有国の不信がさらに深まれば、20年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議にも響く。全体的に明るい見通しは立てづらい状況だ。

  ―米ロ両国には何が求められますか。
 冷戦下に成立したINF廃棄条約を始め、両国は考え方の違いを粘り強く擦り合わせる努力を実際にしてきた。先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、トランプ氏がロシアの会議への復帰に触れるなど、対話の窓口を残しておきたいとの思惑も透ける。両国には対話の努力を期待したい。

中距離核戦力(INF)廃棄条約
 1987年、当時のゴルバチョフ・ソ連共産党書記長とレーガン米大統領が調印し、88年に発効。米ソの地上配備の中・短距離ミサイル(射程500~5500キロ)を発効後3年以内に全廃すると定めた。条約に縛られない中国などは開発・配備を進めた。米国はロシアの違反を理由に今年2月、破棄を通告。8月2日に失効した。

(2019年8月30日朝刊掲載)

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