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連載・特集

緑地帯 中村香織 夢のかたち <8>

 私は表現者として、枠を設けずにいろいろな形で、私なりにできることをこれからも考え、表現していきたい。

 学生時代に語り部の方から伺った話、佐々木禎子さんの話、真っ黒なお弁当箱の話、被爆した三輪車の話、おこりじぞうの話…。たくさんのエピソードを心にとどめながら、怒りではなく身近な人や大切なものを守っていく、そんな気持ちで作品を届けたいと思う。

 私の同級生が親子で朗読劇を見に来て、戦争のことを話すきっかけになったり、お子さんの日記の8月6日の欄に「今日はとても悲しい日」と書かれたりしたことを教えてくれた。「おじいちゃんから聞いた戦争の話を娘にしようと思う」と言ってくれた友人もいた。未来を担う子どもたちが「平和を尊ぶ気持ち」をいつまでも大切にしてもらえたら、これほどうれしいことはない。

 私が朗読劇のモチーフを「アサガオ」にしたのは、アサガオのつるのように、平和への思いがどこまでも続いていくのをイメージしたからだ。親から子へ、また子から孫へとつながっていってほしいと思う。そして次々と咲く、けなげで生命力あふれるアサガオの花のように、イキイキした優しく美しい日本にしていきたい。

 小さい頃に抱いた夢は、少しずつかたちを変えながら成長してきた。何かを伝えたい、届けたい、誰かが行動するきっかけをつくりたい、今はそんな思いになっている。広島に生まれ育った表現者として、被爆3世として、もっともっと活動を広げたい。祖母につないでもらった命に感謝しながら。(舞台俳優=東京都)=おわり

(2019年9月5日朝刊掲載)

緑地帯 中村香織 夢のかたち <1>

緑地帯 中村香織 夢のかたち <2>

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緑地帯 中村香織 夢のかたち <7>

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