×

連載・特集

[考 fromヒロシマ] 「ヒロシマの案内人」 定着 ピースボランティア20年

外国人急増 対応に苦慮も

 原爆資料館(広島市中区)の「ヒロシマピースボランティア(HPV)」の活動が今年で20年を迎えた。30~88歳の202人が登録し、館内解説や平和記念公園にある慰霊碑のガイドを担っている。国内外から訪れる観光客や修学旅行生らにとっての「ヒロシマの案内人」としてすっかり定着。一方、広島を訪れる外国人の急増に対応が追い付かないなどの課題にも苦心している。(桑島美帆、新山京子)

 「This point was Shima Hospital(ここには島病院がありました)」。今月中旬、原爆資料館東館で、がれきと化した爆心地のパノラマ写真を示しながら、ピースボランティアの長沼良助さん(78)=西区=が英語で語り掛けた。

 長沼さんが案内したのは、フランス・パリから訪れたアン・ディンツナーさん(38)たち女性2人。本館では、焼け焦げた三輪車や弁当箱、被爆者が描いた「原爆の絵」など展示品一つ一つの前で立ち止まって声を落として解説。約2時間かけて館内を回った。

 「案内を聞きながら、遺品や写真に息吹を感じた。遠い存在だったヒロシマで、何があったのかを深く理解できた」とディンツナーさん。長沼さんは元マツダ社員で活動歴12年。「雑談をしながら要望をくみ取り、説明を工夫している。平和が大切だと感じて帰ってほしい」と力を込める。

解説の在り方模索

 今年4月にリニューアルオープンしたばかりの本館は、来館者が原爆犠牲者の遺品と静かに向き合うことを重視する展示構成に一新された。ボランティアたちは、資料館側の意向を聞きながら、新たな本館での案内や解説の在り方を模索している。

 HPVは、資料館を運営する広島平和文化センターが1998年に「平和学習支援ボランティア」として募集したのが始まり。被爆者の高齢化を見据え、若い世代が被爆体験を継承しながら原爆資料館を案内する試みだった。翌年4月に、20~70歳の58人で活動を開始した。

 ボランティアたちは、平和学習の勉強会を自主的に開いたり、ガイドのノウハウを教え合ったりして研さんを積んでいる。代表幹事の熊高巌さん(77)=安佐北区=は「原爆は非人道兵器であり、二度と使ってはならないと思ってもらうことがわれわれの役目。来館者との出会いで学ぶことも多い」と話す。

野外の碑巡り好評

 野外での「碑巡り」の案内も好評だ。修学旅行の季節になると学校からの申し込みが1日7、8件舞い込む。平和記念公園内を約1時間歩き、小中学生の目線に合わせて被爆樹木や公園の下に眠る被爆前の町の様子などを紹介する。効率的に見学でき、解説が分かりやすい、と毎年依頼する学校も多い。

 ただ、公設ガイドとはいえ、あくまでボランティア。交通費が月2回分支給されるのみで報酬はない。平日も活動できるリタイア世代が多くなり、平均年齢は67・6歳。炎天下の碑巡りや立ったまま行うガイドは体力仕事だ。

 ヒロシマ観光の人気も、ボランティアたちの活動に影響を与えている。99年度は約9万人だった外国人の入館者は20年間で約5倍に増え、昨年度は43万4838人。長沼さんのように英語が話せる67人が登録しているものの、実際に活動できるのは1日当たり2、3人にとどまる。中国語、韓国語、スペイン語を使えるボランティアは1人しかおらず、依頼の多くを断らざるを得ないのが現状だ。

 こうした状況を踏まえ、資料館は今年、50人程度を3年ぶりに新規募集した。今後、交通費の支給額も増やすという。浜岡克宣副館長(61)は「ボランティアの熱意に支えられ、来館者の満足度は確実に上がっている。年齢層を広げ、外国語が話せる人を増やしていきたい」としている。

  --------------------

原爆資料館が不定期募集

 ヒロシマピースボランティアは18歳以上が対象で、原爆資料館が必要に応じて募集している。毎月2回以上の活動を1年以上継続することが条件で、「デビュー」前には大学教員や学芸員を講師に、原爆被害や現在の核状況について講座を受ける。

 現在、6人が被爆者としての体験証言と「二足のわらじ」で活動。東京から通う若手や、広島市が育成する「被爆体験伝承者」と掛け持ちの人もいる。

 最年少の会社員松本愛美さん(30)=南区=は兵庫県出身。大学進学を機に広島に住み、「自分は被爆体験を直接聞ける最後の世代かも」との思いから活動を始めた。外国人をガイドした際「被爆者は米国を憎んでいないのか」と聞かれ、答えに詰まったことも。「被爆者の思いを本当に分かった上で解説できているか悩んだ」と振り返る。

 「日々の活動の中で、被爆の実態を学んでいる」と松本さん。「もっと若い世代に仲間に加わってほしい」と話す。

  --------------------

ニュースレター1000号へ メンバー研さん・交流の支え

 約20年間、ボランティア同士の研さんと交流を支えてきたのが、原田健一さん(74)=東区=が編集し、毎週1回メール配信するニュースレター「マンデーメモ」だ。2000年4月から短期の中断を挟みながら継続し、来月下旬、節目の第千号に達する。

 タイトルは原田さんの活動日である月曜に由来。原爆資料館の職員や研究者など、関係者約290人に配信している。

 「原爆の熱線で人体がすべて炭化することはあったか」「本川国民学校の再開時の様子は」「イスラエルは核兵器開発のため核実験をしたのか」―。ボランティアたちが疑問を調べて情報を共有するほか、平和関連行事の案内も掲載。第1号からすべて閲覧できるようにしている。

 投稿の「常連」は、ボランティア約30人。英語のガイドも担当する辻靖司さん(77)=西区=は「マンデーメモは知識を深める貴重な情報源」と話す。ガイドした相手から聞いた感想をほぼ毎週寄せている。

 「4桁に達すると思うと感慨深い。みんなの協力で続けられた」と原田さん。これからも気負わず、配信をしていくつもりだ。

(2019年9月30日朝刊掲載)

関連記事はこちら

動画はこちら

年別アーカイブ