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コンゴ性暴力 関心を ノーベル平和賞のムクウェゲ氏 広島で講演

「国際社会にも責任」

 アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)で紛争下の性暴力の被害者を支援し、昨年のノーベル平和賞を受けた産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏(64)が6日、原爆資料館メモリアルホール(広島市中区)で講演した。コンゴの問題は、世界中に需要がある鉱物資源の争奪と直結していると指摘し「日本と国際社会は、わがこととして関心を持ってほしい」と訴えた。

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 コンゴは1990年代に始まった紛争による死者が600万人に及ぶとされる。特に近年、ムクウェゲ氏が住む同国東部では、スマートフォン製造に不可欠な鉱物資源が豊富な地域の住民を、政府側と反政府側双方の武装勢力が組織的なレイプを繰り返すなどして恐怖に陥れ、支配しているという。

 ムクウェゲ氏は「女性も、レイプを目撃した家族も被害者。国内避難民となるか、支配され続けるかの選択肢しかない。地域が戦略的に破壊されている」と説明。「コンゴ政府はもちろん、加害者の処罰に動こうとしない国際社会にも責任はある。無関心と闘わなければならない」と強調した。

 また、5日に原爆資料館を見学し被爆者と面会したことに触れ「二度と繰り返してはならない、というメッセージを持ち帰る。性暴力も核兵器もない世の中へ、ともに行動しよう」と呼び掛けた。

 ANT―Hiroshima、NGOピースボート(東京)、コンゴの性暴力と紛争を考える会(同)の主催で、約300人が聞いた。(金崎由美)

「女性の人権」教育必要 コンゴの現状 ムクウェゲ氏に聞く

 コンゴの産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏が6日、広島市中区で中国新聞の単独インタビューに応じた。米国が1940年代に進めた原爆開発計画では、当時のベルギー領コンゴのウランが広島原爆の材料になった。武装勢力が資金源にしている希少金属タンタルはスマートフォンの部品に使われている。広島とも無縁ではない国の現状を聞いた。(金崎由美)

  ―医師としてどのような活動をしていますか。
 99年にコンゴ東部に設立したパンジ病院で、レイプされた女性5万人以上をこれまで治療してきた。性器内に銃口を入れて発砲されるなど、被害はさまざまだ。生後6カ月の女児から80歳の女性まで、年齢も幅広い。手術時に傷を見れば、どの武装勢力の仕業なのか私には分かる。

  ―暗殺未遂に遭い、常に脅されながら活動、発言していると聞きます。
 紛争が勃発した23年前の10月6日、当時勤めていた病院が襲撃され、患者と職員30人以上が殺害された。2012年には自宅が襲撃され、家のセキュリティー担当が私の目の前で銃殺された。警察は捜査しようとしない。一度は国外に逃れたが、被害女性たちの声に応えて帰国した。

  ―女性の被害実態を聞くとあまりに残酷です。コンゴ以外でも起きているのでしょうか。
 世界中の紛争地の実態を調べると、多くの場合レイプが行われている。南米コロンビアでは鉱物資源ではなく、コカインの権益を巡る争いだ。コンゴだけの問題ではない。しかも性暴力は平時も社会に存在する。日本も例外ではないだろう。加害者は罰せられず、被害に苦しむ側が責められ「沈黙しろ」と強いられる。そんな状況で戦争が起きると、法制度が機能しなくなり、レイプが横行する。

  ―女性の人権保障という課題も見えてきますね。
 男性優位の社会がレイプを許している。教育は非常に大切であり「男性は女性と平等だ」と世界中で教える必要がある。女性も男性も、等しく人間性を保障されなければならないという価値観が育まれるべきだ。

デニ・ムクウェゲ
 1955年、コンゴ東部のブカブ生まれ。隣国ブルンジの大学で医学を学ぶ。99年、ブカブにパンジ病院を設立。2008年、国連人権賞を受賞。18年、過激派組織「イスラム国」(IS)に性奴隷として拘束されながら生還して性暴力根絶を訴えるイラク人女性ナディア・ムラド氏と共に、ノーベル平和賞を受賞した。

(2019年10月7日朝刊掲載)

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