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社説・コラム

社説 即位の礼 象徴天皇 探り続けねば

 天皇陛下が国内外に即位を宣言する「即位礼正殿の儀」がきのう皇居で行われた。「即位の礼」の主要儀式である。

 象徴天皇としての役割を上皇さまから引き継いでいく決意なのだろう。陛下のお言葉にも、その思いが強くにじんでいた。

 一連の行事は、政府の意向で約30年前の平成の代替わりをほぼ踏襲した。古式や伝統にのっとれば妥当かもしれない。とはいえ、時代は移り変わり、国民の意識も変化している。柔軟な発想がもっと必要ではないか。

 憲法1条は、天皇を「日本国民統合の象徴」と位置づける。その在り方を私たちも問い続けなければならない。

 即位礼正殿の儀には、191の国と国際機関などの代表が参列した。国際親善や友好も深まったに違いない。多くの国から祝福を受けるのは、戦後日本が平和国家の道を歩んできたからに他ならない。その歩みにも改めて思いをはせたい。

 皇居・宮殿には30台のモニターが設置され、正面からは見えにくい参列者も儀式の様子を追うことができた。そのため、玉座「高御座(たかみくら)」のとばりが開いて陛下の姿が披露される演出が復活した。時代に即した進化と言えよう。

 一方で、儀式の大部分は平成と同じ形式だった。

 高御座から見下ろす形で即位を宣言し、首相の発声に続いて参列者が万歳三唱した。国民に寄り添う象徴天皇の姿とは隔たりがある。万歳は祝意を表しただけにすぎないとしても、戦前回帰と受け止められないように丁寧な説明が必要だ。

 三種の神器のうち剣と勾玉(まがたま)をそばに置くスタイルも含め、政教分離に反するとの指摘も専門家から絶えない。本番まで準備期間は十分あったのだから、時代に即した儀式のありようをもっと議論できたはずだ。

 費用総額は前回より3割増の163億円に上る見通しだ。人件費や資材価格が高くなっているとはいえ、国の財政状況を考えれば議論の余地がある。

 平成の代替わりでは、戦前・戦中を記憶する人が多く、天皇制自体への批判は今より強かった。しかし、災害のたび現地に足を運び、膝を突いて被災者と心を通わせる姿に国民の意識も確実に変わってきた。

 共同通信社の5月の電話世論調査では、天皇制について「今の象徴のままでよい」が8割だった。台風19号の甚大な被害を受け、祝賀パレードを来月に延期したのも、今の国民や皇室にとってごく自然な流れだろう。

 その役割を今後も果たしていく上で、大きな懸念がある。皇位の安定的な継承や皇族数の減少への対応だ。若い男性皇族が秋篠宮家の悠仁さまだけという事実は見過ごせない。

 ところが政府の動きは鈍い。今秋に発足するはずだった皇位継承策を話し合う有識者会議を来春まで先送りする考えが内部で浮上しているという。それほどまでに女性・女系天皇の議論を遠ざけたいのだろうか。

 これからの社会を考える上でも、国民の象徴としての天皇の役割は大きく、重い。

 外国人労働者の受け入れが増え、地域社会でも国際化が急速に進んでいる。言葉や文化の違いをどう乗り越え、認め合うか。多様化する社会の中での在り方は新時代の座標になろう。

(2019年10月23日朝刊掲載)

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