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社説・コラム

社説 自衛隊の中東派遣 不測の事態 招かないか

 自衛隊の中東派遣について、政府が検討に着手した。日本船舶の安全を確保するためだというが、唐突に過ぎよう。

 米国主導の「有志連合」には参加せず、独自に艦船などを派遣し、アラビア半島南部のオマーン湾やイエメン沖で警戒監視活動に当たるとみられる。6月に日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃を受けたホルムズ海峡は避ける見通しだ。

 しかも防衛省設置法に基づく「調査・研究」だと説明するのは苦肉の策だろう。「有志連合」に加われば、イランとの関係が悪化する。といって「自国の船舶は自ら守るべきだ」と主張しているトランプ米大統領の求めもむげにできない。

 だが「調査・研究」であっても、自衛隊が不測の事態に巻き込まれない保証はない。

 9月にサウジアラビアの石油施設が攻撃され、イエメンの武装組織が犯行声明を出したが、米やサウジはイランの関与を疑っている。この時の小型無人機や巡航ミサイルによる攻撃は首謀者の特定が困難であり、かえって疑心暗鬼を招く。イスラエルの動向なども絡んで、中東全体が緊張をはらむ中、偶発的な衝突は十分想定できよう。

 しかも「調査・研究」は国会の承認が不要で、防衛相の判断だけで決定できる点も問題である。事態が急変すれば自衛隊法に基づいて日本関係の船舶を護衛できる「海上警備行動」を発令することも可能だという論法が、政府内部にはあるようだ。なし崩し的に自衛隊の海外派遣が広がる懸念は拭えない。

 こうした重大な判断に、国会が関与しなくていいのか。与野党を問わず危機感を抱くべきだろうし、開会中の国会で徹底した議論が必要だろう。

 さらにいえば、派遣自体の妥当性も問われよう。安倍晋三首相はこれまでのトランプ氏やイラン首脳との会談で、対話による中東の緊張緩和に尽力すると強調してきた。あらためて安倍首相が米とイランの橋渡しに努めるのなら納得できる。

 6月のホルムズ海峡での事件以降、日本関係の船舶が狙われたケースはない。ならば今、派遣を決めなければならない緊急性もないはずである。

 また日本が輸入する原油のおおむね8割が通過し、エネルギー供給の生命線とも言えるホルムズ海峡を活動地域としない。イランへの配慮とも思えるが、沿岸国の領海が重なって公海が狭く、活動が困難であると言えよう。ホルムズ海峡を抜きにして「調査・研究」が成り立つのかという疑問符も付く。

 海上自衛隊呉基地のある呉市では、本紙の取材に対し「国が決めるなら、やむを得ないが、自衛官や家族が納得するしっかりとした理由が必要だ」という声も上がっている。

 陸上自衛隊のイラク派遣部隊の日報や南スーダン国連平和維持活動(PKO)陸自部隊の日報を巡っては、その存在を隠蔽(いんぺい)していた問題が相次いで露見し、防衛相の辞任にまで発展した。派遣先の過酷な現実を覆い隠すことは、隊員の命に関わる問題に発展しかねない。

 「調査・研究」の名目で専ら派遣への批判をかわそうとしていると、現実を見落とす恐れがある。きのうの自民党の部会でも異論が相次いだ。政府首脳には心してもらいたい。

(2019年10月24日朝刊掲載)

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