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社説・コラム

社説 日韓の首相会談 関係改善のきっかけに

 安倍晋三首相はきのう、天皇陛下の「即位礼正殿の儀」に合わせて来日した韓国の李洛淵(イ・ナギョン)首相と会談し、「日本は重要なパートナーだ」と関係改善への意欲を伝える文在寅(ムン・ジェイン)大統領の親書を手渡された。

 首脳会談が昨年9月以降開かれていないなど両国関係は、かつてなく悪化している。それを打開するのが狙いなのだろう。

 とはいえ徴用工問題を巡る両国の隔たりは大きい。それでも会談で安倍首相が述べたように非常に厳しい状況にある日韓関係を「放置してはいけない」のは確かである。関係改善に向けた一歩としなければならない。

 というのも北朝鮮の横暴が目に余るからだ。5月以降、ミサイル発射を繰り返している。日韓関係に亀裂が入ったままでは北朝鮮に付け込まれるだけではないか。中国やロシアも、日韓の不和に乗じる姿勢をちらつかせている。北東アジアの平和と安定のため、まずは政府間の意思疎通を密にしたい。

 約20分間の会談では、国民間の交流が重要だとの認識で一致した。当然と言えよう。互いに力を尽くすべきである。

 日韓関係は、昨年10月に韓国の最高裁が元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じたのを機に急速に悪化した。互いに輸出規制を強化する事態に陥っている。

 韓国最高裁の判決に日本政府が強く反発するのは、1965年の日韓請求権協定があるからだ。韓国への経済協力として当時のレートで約1800億円に当たる計5億ドルを日本が供与することで、両国と国民間の財産・請求権問題が「完全かつ最終的に解決された」ことを両国政府が確認した協定である。

 これにより請求権問題は解決済みと日本政府は考えている。判決に厳しいのも無理はない。

 今回の会談でも安倍首相は、請求権協定に韓国が違反していると李首相に指摘した。その上で、国と国との約束を順守して健全な関係に戻すきっかけをつくるよう要請した。

 協定の重みについて、知日派として知られる李首相はおととい、個別に会談した日本の与野党幹部らからも、繰り返し強調されていた。にもかかわらず安倍首相に、「韓国は協定を守っている」と主張した。これでは平行線のままだろう。韓国に帰った後、文大統領に日本の考えをどう伝えるのか。それを受けて文大統領がどういう姿勢を示すのか。今後の鍵になろう。

 真剣に関係改善に取り組むつもりなら、韓国政府が打てる手はあろう。例えば一方的に破棄を通告した日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)である。機密情報を提供し合う際、第三国への漏えい防止のため結ぶ協定で、対象は軍事技術だけでなく、戦術データや暗号情報など広範囲に及ぶ。

 日韓協力の緊密な象徴としての意味合いが強かったが、このままでは11月23日に期限が切れる。その前に韓国は破棄通告を取り消すべきではないか。米国を含め、対北朝鮮で態勢を整え直すことにもつながるはずだ。

 日韓関係悪化の余波は既に広がっている。相手国への観光客が減り、航空路線の運休・減便も目立つ。不毛な対立を続けていては互いに疲弊するだけだ。各種レベルでの対話を重ね、歩み寄りの糸口を見いだす努力が日本政府にも求められる。

(2019年10月25日朝刊掲載)

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