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社説・コラム

社説 日韓軍事情報協定 関係改善へ 努力見えぬ

 日本と韓国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)が、韓国が協定破棄の通告を撤回しなければ、23日午前0時に失効する。

 協定は、米国が要となって日韓が協力体制を整えている象徴的な存在である。このまま失効すれば、北東アジアの安定に影響を及ぼしかねない。戦後最悪とされる日韓関係の改善もより難しくなるだろう。

 残された時間は少ないが、日本政府は米国と連携し、韓国側が翻意するよう全力を挙げるべきだ。

 GSOMIAは、軍事上の機密情報の共有を可能にするもので、日本と韓国は2016年11月23日に締結した。

 韓国がその延長を見送り、破棄を決定したのは、日本による対韓輸出規制の強化に反発したのきっかけだった。

 ただ、破棄の通告から3カ月たつが、決裂回避に向けて、どれだけ努力を重ねてきたのか見えにくい。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「安全保障上の理由で輸出規制を強化した日本と軍事情報を共有するのは難しい」と繰り返し、原因は日本側にあるとの考えを曲げない。

 韓国側は輸出規制を撤回すれば、協定を存続させる方針を示しているが、安倍晋三首相は「輸出規制と協定破棄は次元が異なる問題」と位置付け、応じる姿勢を見せない。

 歩み寄りの気配さえ感じられないのは、それぞれの事情が両国に存在し、複雑に絡み合っているからだろう。

 韓国の世論調査では、国民の半数近くが協定破棄を支持している。来年4月の総選挙を控え、文大統領も強硬姿勢を崩しにくいと見られている。

 一方、日本側にも元徴用工問題の解決に向けて、積極的に動こうとしない韓国政府への不信感がある。いらだちを募らせたのもやむを得ないが、問題解決に向けて輸出規制強化を打ち出したのは適切ではなかった。

 韓国側も、輸出規制を巡る問題にGSOMIAを持ち出したのは明らかに過剰反応である。

「ボタンの掛け違い」が繰り返され、対立を深刻化させたと言える。

 韓国に加え、日本側にも「影響は限定的で、失効やむなし」との見方が広がっているが、このまま失効した場合、損失は大きいと言わざるを得ない。

 北朝鮮は核・ミサイル開発を継続している。冷え込む日韓関係を見透かすように5月以降、新型を含むミサイル発射を繰り返している。日韓のミサイルの性能分析などに支障が出てくる可能性がある。

 最も懸念されるのは、日米韓の足並みの乱れを国際社会にさらすことだ。

 ここにきて米国がエスパー国防長官らを相次いで派遣し、韓国に再考を促したのも、そうした危機感の表れからだろう。エスパー長官は、日韓対立が続けば「中国や北朝鮮を利するだけ」と警告している。

 日本にとっても、韓国人観光客の減少による経済への打撃に苦しむ地域も出ている。北朝鮮の非核化はもちろん、日本人拉致問題の解決に向けては、韓国の協力が欠かせないはずだ。

 両国は、協定の失効期限をいったん延長してでも、対話を継続させ、粘り強く解決策を探るべきだ。

(2019年11月22日朝刊掲載)

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