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「戦争に原子力使用は犯罪」 ローマ教皇 広島訪問 38年ぶり2度目 被爆地から発信

 訪日しているローマ教皇(法王)フランシスコが24日、広島、長崎を訪問した。教皇が両被爆地を訪れたのは38年ぶり2度目。広島市中区の平和記念公園で「戦争のために原子力を使用することは、犯罪以外の何ものでもない。人類とその尊厳、倫理に反する」とメッセージを発信した。核兵器の使用や保有を明確に否定し、人類史上初めて原爆が投下された広島が持つ惨禍の記憶を広げるよう訴えた。(久保田剛)

 メッセージは約14分間。「核戦争の脅威で威嚇することに頼りながら、どうして平和を提案できるのか」と強調。核抑止力に頼り、核兵器禁止条約に背を向け続ける核兵器保有国を強い言葉で批判した。平和を築く具体的な行動も求め、現状のままでは次世代の人々から「平和について話すだけで何一つしなかった」と裁かれるとした。

 広島で起きた惨禍については「現在と将来の世代が、ここで起きた出来事を忘れてはならない」と呼び掛けた。広島の記憶には「全ての人の良心を目覚めさせ、広がる力がある」と述べ、悲劇を繰り返さないため、各国の指導者や次の世代に伝えていく大切さを説いた。

 メッセージに先立ち、14歳で被爆した梶本淑子さん(88)=広島市西区=が証言し「核兵器は地球上に存在してはならない」と訴えた。原爆投下直後の惨状、放射線の影響で今なお苦しみ続ける人たちについて語り、各国の指導者に広島を訪れるよう呼び掛けた。

 平和のための集いには、被爆者やさまざまな宗教の代表者たち約2千人が参加した。教皇は平和記念公園に到着後、広島市の松井一実市長や広島県の湯崎英彦知事たちの出迎えを受けた。県内の被爆者たち一人一人と言葉や握手を交わしたり、抱き合ったりした。原爆慰霊碑に花束を手向けた後、県内の高校生平和大使から種火を受けてキャンドルに点火。約1分半、黙とうして犠牲者を悼んだ。公園の滞在時間は約50分。広島空港(三原市)から東京へ向かった。

「核なき世界は可能」 長崎演説

 教皇は24日午前には、長崎を訪問し演説、核廃絶を訴えた。「核兵器のない世界を実現することは可能であり必要不可欠だと確信している」と強調。核兵器を含む大量破壊兵器の保有や核抑止も否定、被爆地訪問は自らの義務だと感じていたと述べた。

 24日午前、原爆落下中心地碑がある長崎の爆心地公園に到着した教皇は、長崎について「ここは核攻撃が人道上も環境上も破滅的な結末をもたらすことの証人である町だ」と指摘した。平和実現のため「核兵器禁止条約を含む国際法の原則にのっとり飽くことなく迅速に行動していく」と強調。米国の「核の傘」に依存し、同条約に参加していない日本に対応を促す発言とみられる。

 軍拡競争は無駄遣いとして、武器の製造や維持、改良は「とてつもないテロ行為だ」と批判。来春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を前に核保有国と非保有国側との間にある溝が浮き彫りになっている現状を念頭に「相互不信によって兵器使用を制限する国際的な枠組みが崩壊する危険がある」と警鐘を鳴らした。

ローマ教皇フランシスコ 略歴
 本名ホルヘ・ベルゴリオ。1936年12月17日、アルゼンチンのブエノスアイレスでイタリア系移民の家庭に生まれる。チリやアルゼンチンで哲学などを学び、アルゼンチンの大学で文学などを教えた後、69年に司祭叙階。98年にブエノスアイレス大司教、2001年に枢機卿。13年3月13日、枢機卿らによる選挙(コンクラーベ)で中南米から初の教皇に選出され、第266代教皇に19日就任、ローマ・カトリック教会の頂点に立った。イエズス会出身。

(2019年11月25日朝刊掲載)

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