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教皇被爆地訪問【解説】逆風下 核廃絶の契機に 強い言葉で違法性指弾

全ての人に行動求める

 「戦争のための原子力の使用は犯罪以外の何ものでもない」―。被爆地の広島と長崎に立ったローマ教皇(法王)フランシスコは、強い言葉で核兵器の違法性を断じ、核兵器の保有・依存からの脱却を求めた。小型核の開発など新たな軍拡競争すら見せる国際情勢をただし、政治家だけではなく、全ての人に核兵器廃絶に向けた行動を求めた。(明知隼二)

 核超大国である米ロ両国の対立は深まり、冷戦の転換点になったとされる中距離核戦力(INF)廃棄条約は失効。核兵器の近代化が進み、中国も軍事力を増強する。「最新鋭の兵器を製造しながら、どうして平和を提案できるのか」。教皇は広島で発したメッセージで「人間不在」の国家間の権勢争いを指弾した。

 そうした現状にあらがう鍵とされたのが、人間の記憶だ。「記憶し、共に歩み、守ること」。被爆の記憶を継承し、伝えることが「より正義にかなう将来を築く」とした。

 この訴えは、1日で両被爆地を訪れる日程にも垣間見えた。原爆資料館を見学する間もないほどの行程の中、短いながらも被爆者の発言の場を設けた。苦難を強いられた被爆者の存在は、世界の信徒たちに届けられただろう。その一挙手一投足が報じられる、自らの注目度の高さを織り込んだ戦略と映った。

 足元の被爆地にも宿題を投げ掛けた。「傷の痛みに叫ぶ兄弟の声に耳をふさぐことは許されない」。長崎で語った比喩は、原爆に家族を奪われた遺族にとり、強いられた現実そのものだった。「沈黙のふちから亡き人々の叫び声が聞こえる」との言明も、核兵器に反対の声を上げる機会すら与えられなかった死者のため、その記憶までも引き受けよとの、被爆地に暮らす私たちへの要請である。

 「唯一の被爆国」を掲げる日本政府は今なお、核兵器の非人道性の訴えを柱とする核兵器禁止条約に背を向け続ける。「次世代が私たちの失態を裁く裁判官として立ち上がるだろう。平和について話すだけで、諸国間の行動を何一つしなかったと」。政府は、教皇のこの言葉への応答を求められている。

(2019年11月25日朝刊掲載)

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